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「ここは……」
「私と昭、神楽とまたもうひとりの幼なじみの四季とよく遊んでいた場所です。よく泥だらけになったもので、昭たちの両親に物凄く怒られたのも懐かしい記憶です」
「ふふっ、昭さまや幸乃さんにもそのような時期があったのですね」
思わず笑みがこぼれてしまい口元に手を持っていこうとするが、その手を幸乃に掴まれる。
「ようやく笑っていただけました」
「え……?」
さちを見て嬉しそうに笑う幸乃は今まで見てきた使える者の顔ではなく、ひとりの人間としてさちを見て頬がゆるんでいるように感じる。
幸乃はもう一度さちの手を引く。土手に手巾を敷き、さちに座るよう促す。ゆっくりと座るとその隣に幸乃も腰を下ろす。
「さちさんが神々廻へとやってきてもう少しでひと月となります。最初の頃より笑っていただけることが増えましたが、最近あまり顔色がよくないと思っていたので、昭とともに心配していたのです。なにか気になることでもあるのでしょうか? もし、私に話せることなら話してみてください。お力添えできるかもしれませんしッ!!」
さちの手を優しく包み込む幸乃の手はとても温かくて、さちの口はゆっくりと開く。
「幸乃さんは……」
「はい」
「――幸乃さんは昭さまのことを好いているのですか?」
「……え?」
ぎゅっと手を握りしめながら意を決して幸乃に問いかける。
思ってもいなかった言葉だったのだろう。幸乃はおかしな声を出しながら目を見開いて、さちを凝視しながら体を固まらせる。
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