3人が本棚に入れています
本棚に追加
悪意の王様
あなたは『悪意の王様』について知っているだろうか?知っているかもしれないし、知らないかもしれない。まあ、それはどっちでも構わない。
都市伝説や陰謀論を詳しく調べて行き、さらに運が悪いとぶち当たる存在だ。悪名高い財閥や組織なんかの頂点に君臨して、この世界を睥睨している。この世で起こる不可思議な事件や戦争、災害なんかは全て、王様の仕業らしい。
王様の目的は誰にも分からない。理解の範疇の外にある。ただ一つ言えるのは人類、あるいは世界に対してこの上無い悪意を抱いていて、悪意を実行していると言う事だ。
まあ、これは全て友人の飯田の受け売りだ。
その飯田からすぐに来てくれ、と呼び出しがあった。
飯田は悪いヤツじゃない。欠点はあるけど、良い所もある。諦めが悪いのを粘り強いと言えば、立派な長所だ。機嫌が悪くなると、神経質に爪でテーブルをコツコツと叩く癖だって、好意的に見れば分かりやすいって言えるかも知れない。
粘り強く諦めないのは多分、長所だろう。彼は理想的な仕事を得て、同世代に比べて随分と豊かな生活を送っている。そんな彼は瀟洒なマンションの最上階に住んでいる。眺めも価格も目玉が飛び出る程だ。
飯田は引越しをしていた。以前の様な都会のど真ん中なんかじゃなくて、田舎も田舎、電車は勿論、バスもタクシーも通らないひどく辺鄙な所だ。自然豊かで風光明媚、と言えば聞こえが良いが、普通の感性で言えば不便極まりない所だ。僕のクルマにナビが着いていなければ、辿り着けなかっただろう。もっとも最新式のナビでも近くに行くのが限界で、途中、何度も飯田に電話をしなくてはならなかった。
僕は何とか飯田の新しい家に辿り着いた。本当に『辿り着いた』って表現がピタリと来る。道なき道も走ったし、野生動物にも出くわした。これで野盗と戦いでもしたら、本物の冒険だったろう。ちょっと話を盛れば冒険譚が書けるぐらいだ。
彼の新しい家は平屋のオンボロで木に囲まれていた。林の中に家がある、そんな感じだ。昼間なのに当然の様に薄暗い。家の第一印象はきっと雨漏りするんだろうな、ってところだ。まともな神経の持ち主なら中に入りたいとは思わないだろう。けど仕方ない。せっかくここまで来たのだ。インターホンなんて気の利いたモノは見当たらなかったから、ドアを強めに叩き、飯田の名前を大声で呼んだ。
飯田はすぐにドアを開けて僕を入れてくれた。
「よう。高橋。久しぶりだな。思ったよりも早かったな」と飯田は笑みを浮かべて言った。
家の中は見かけほどオンボロじゃなかった。確かに古い家だったけど、きちんと片付けられ、僕の家なんかよりも清潔そうだ。よく飯田が『片付けと掃除は風水の基本だ』と言っていたのを思い出した。
「ああ。久しぶり」と僕は挨拶を返した。「思ったよりも早かったって、他にも誰か来たのかい?」
「ああ。宅急便とかな。みんな迷うんだ。でもさすがにプロだよな。誤配は今のところ、一つも無い」
「誤配って、周りには君の家しかないじゃないか。誤配のしようが無いぜ」
「ははっ。違いない。まあ、入れよ。話があるんだ」
最初のコメントを投稿しよう!