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這いずり回るもの ①実家へ帰省
私、片岡優里は32歳。
転職して、新しい職場で出会った夫と昨年結婚して、今は東京で暮らしている。
東京の中でも、下町と言われる北千住という所に住む事となった。
夫の借り上げ社宅。
私はもともと、関西の出身で東大阪という所に住んでいた。
慣れない東京生活にも、少し慣れてきたこの頃。
落ち着いたら、又就活をせねば。そんな事を思っていたある日、携帯が鳴った。
「和おじちゃんが、体調があまり良くなくて、時間のあるなら、ちょっとこっちに帰っておいで」と母からの電話だった。
和おじちゃんは、父の兄、私の叔父である。
タバコとパチンコのやり過ぎで、肺の病で伏せているとの事。
とても嫌な予感…
肺の病気って、もしかしてアレかなぁ。
そんな事を考えながら、新幹線に乗った。
新幹線の中って、なんだろ、空気が独特の感じがする。これって私だけかな?
異世界…は大袈裟すぎるけど、異空間的な感じ。
それは、短時間で遠くに行けるから?
スピードのせい?
よくは分からないが、私はこの空気感は好きだ。
現実逃避できる感もある。
コーヒーとワッフルで、小腹を満たして旅を楽しむ。旅という程でもないけど。
結婚してから、1人で遠くに出掛ける事はあまりない。なくなった。
何だかんだと言って、夫とセットで動く事がほとんど。それは、あぁ家族が出来たんだっていう安心感もあるけど、まだしっくり来ない時もある。
あー、スマホゲームして、そんな事考えてたらあっという間に新大阪駅に到着した。
平日という事もあり、この時間はビジネスマン風の人達が沢山乗っていた。
皆、足早にホームから降りていく。
私も見慣れた風景を横に、ささっと早足で乗り換え口に直行。
地下鉄に乗った時に、ふと思い出した事があった。私が初めての就職をした所は、アパレルの会社で大きなビルだった。鏡を張った様なキラキラしたビル。
その会社の最寄り駅を通過していく。
その風景は、少し懐かしくもあり、でももう関わりたくない場所でもあった。
関わりたくないのは、良い思い出は殆ど無いから。
同期のえっと、名前が…あっ「真希ちゃん」やっと思い出した。真希ちゃんは、上司に1度だけ、反論した。それがきっかけで、イジメにあい、心を病んで退職したのだった。
反論の内容は、私も真希ちゃんの言い分は正論だと思った。だから、まさかあんな大事になるとは、思いも寄らなかった。
そこが、自分が幼い考えだったと数年経って、やっとわかった。
男社会で、新人の私達如きが、部長に物申すなんて事は絶対に駄目な事だったんだ。
でも、真希ちゃんは容姿の事でいじられていたので、それもあり頭に来ていたと思う。
容姿でいじるなんて、最低だ!だって、いじれる程の容姿じゃないし。
ただ、男というだけで偉そぶって。
忘れられないのは、部長も太っていたのに、真希ちゃんへのイジメは「けつデカ女が来た」 「ブタ女」などと、聞こえる様に言っていた。
私と真希ちゃんの席は遠くて、全てを知る事は出来なかった。でも、そんな事を言われている事はわかっていたし、真希ちゃんにも声かけしていた。
真希ちゃんと私の家は、たまたま1駅違いなだけで、物凄く近所だった。
帰りは一緒になる事もあった。電車内で、何か出来る事はないかと話していたが、真希ちゃんは頑張り屋さんなので、私には弱音は吐かなかった。
私と真希ちゃんの席が離れてなければ…
何か出来たかも知れない。
真希ちゃんの退職間近に、部長が慌てた様子で真希ちゃんの家に頭下げにいくと騒いでいた。
親から電話があった様だった。
真希ちゃんの家は、パン屋さんだと聞いていた。
部長は、「商店街組合から、文句言われる」などと言って、「土下座くらいしたら大丈夫でしょ」と、舌を出して薄笑いを浮かべていた。
あぁ、何て嫌な思い出だろう…
今ならセクハラやモラハラで訴える事出来たのに!!
時代の変化で世の中も違ってくる。
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