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『元女ですが王子として、婚約者を溺愛します』
「ねえ、私は女だから、君と結婚しても子供は望めないよ?それでも、私と結婚してくれる?」
夜の庭園で、天使のような彼は言った。月を背負い金の髪を輝かせて噴水に腰掛ける姿は儚くて、いまにも消えてしまいそう。ぱしゃぱしゃと水音が弾けるように、わたくしの胸も弾けていた。
困ったように眉根を下げる王子様は、悲しそうに青い瞳を揺らしていて。幼いわたくしはただ、笑って欲しくて。
「それなら、わたくしはイリアス様の親友になりますわ!」
女の友情は永遠ですのよ。そう胸を張ると、イリアス様は驚いたように目を見開いて、蕩けるように笑ったのです。…それが、わたくしの恋の始まり。
◇◇◇◇◇◇◇
転生したら王子に生まれていた。うん。私、前世が女なのですが?しかも拙いことに、私の後には妹…姫しか生まれて居らず。このままでは私が次期国王として、跡継ぎを生ませなくてはいけない。
そう、生ませなくては。…前世ノーマルの私には、荷が勝ちすぎるんじゃないかなぁ?!
そんな悩みも12年もたてば、なんとかなるかぁ。と諦めもつくモノで。なんと、婚約者まで出来ました。
これがめちゃめちゃ可愛い良い子なんです。17歳になったいま、精神が身体に引っ張られているのかちょくちょく押し倒したくなる程度には溺愛しています。
「マリア、あーん、は?」
「ぅう、あーん、して下さいませ…っ。」
赤い髪に紫の瞳のマリアは、私の可愛い婚約者です。
いまは私の膝の上で横抱きにしているのですが、羽のように軽い。あと柔らかくて良い匂いもします。最高です
「あーん…ふふっ、美味しいね。」
「それは、良かったですわ…っ。」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに涙を溜める瞳に、加虐心がぞくぞく逆撫でられる。はぁ、かわいい。因みにセクハラでは無いよ!生徒会の仕事を頑張ったご褒美に、マリアに甘やかさせ…マリアが!私を甘やかしてくれてます。
王都のお菓子美味しいね。最近流行ってるって聞いて、マリアの為に買ってきたんだ。というと、蚊の鳴くような声でお礼を言われた。
「いや、なに率先して生徒会室で風紀を乱してるんですか会長!」
「乱してないよ?だってマリアは私の婚約者だから、不純じゃないし。交遊じゃなくて、将来は夫婦だから、ね?」
「っ、は、はぃい…。」
私の言葉に照れて下を向くマリアがいじらしくて、こめかみに口付ける。ちゅ、とわざと音を出して。
「ひゃぁっ!」
マリアの小さい身体が跳ねて、口付けた場所を抑えながらふるふると震えている。可愛くて、思わず顔が綻んじゃうよね。ウサギみたい。
「二人の時にやって下さい!目に毒!独り身のことも考えて!」
マリアを愛でていたら書記のジルドに凄い剣幕で怒られた。
ええー?私はちゃんと仕事を終わらせたのに。ジルド以外の皆は苦笑いしてるだけで、私を止めないよ?まだ離れたくないし、もう少しマリアで遊びたい。
ジルドの剣幕に圧されて私の膝から降りようとしているマリアの、腰を掴んで引き寄せる。逃がすと思った?
「マリア、降りて良いって言ってないよ?」
「で、ですが皆様のご迷惑に…っ、」
「うん?」
「っ、あの、えっと…、もう少しお邪魔します…。」
「ふふ、どうぞ。」
ただでさえ小さい身体を縮込ませて、膝の上で肩身狭そうにちょこんと座っている。うん、良い子だね。
緩く巻いてある髪を撫でて、指で弄ぶ。ちら、とこちらを見るマリアと目があったので指に絡めた髪に口付けてみると、じわじわと赤面して動かなくなった。
「…会長、前世が女性とか嘘じゃ無いですか?」
苦虫を噛み潰したような顔のジルドに、思わず首を傾げる。
生徒会の面々は将来私の部下なので、そう言ったことも話してあるんだけれど…ジルドの他にも、何人かがうんうんと頷いていて。
「本当だよ?私はマリアに嘘をつかないから。」
「女性の扱い、手慣れすぎでしょう。」
ああ、そう言うことか。
でも元女だからわかる事って結構あるしなぁ。それ以外で?
「どうしたら喜ぶか、候補を挙げて全部試してるだけ。あとは…恋人をよく見て、何が好きなのか、今何を求めているのか。そういったことも気にかけるのが大事かなぁ。」
たぶんだけど。と続けると
「…つまり、マリアンナ嬢が会長の膝に乗るのを求めてるって事ですか?」
ジルドが真面目な顔をして聞いてくる。いやいや、マリアは恥ずかしがり屋さんだからそんなこと言ってこないよ。
触れ合い自体は満更でもないのか、乗せると大人しくしてるけど。でも、それが可愛いし悪戯しやすいし。ちょうどいいんだよね。
「ふふっ、これは私が乗せたくて乗せてるだけ。可愛いでしょ?」
「だからッ!そういうッ!所ですよッ!!」
ええ…力強く机を叩きながら叫ばれた。備品壊れるからやめようね?
というか、そんなことを言われてもなぁ。困っちゃうね?とマリアを見ると、手で顔を覆って固まっていた。
「そんなことをしてると、悪戯するよ?」
「だっ、ダメですっ!」
耳が赤くなってるの見えてるからね?私の婚約者殿は可愛いなぁ。
前に顔を隠されたときにキスをしたの、思い出したんだろうな。それにしても、手慣れてる、かぁ。
「うーん、強いて言うならマリアが可愛いからじゃない?」
「えっ?!」
私の言葉に驚いて、眼を白黒させているマリア。ほら、可愛い
「前世の記憶持ちなんて気味が悪いだろうに、それでもいいって婚約してくれて。今も厳しい妃教育を一生懸命こなしてくれているんだよ?私の為に。いじらしいし、可愛いし。愛しくもなっちゃうよね。」
ね?と、マリアを見ると、羞恥からかじんわり目元に涙がにじんでいる。
「私はこんな感じだから、もし万が一マリアが誰かにそそのかされて、不安に思うことがあっても。日頃から思ったことを伝えていれば、何が真実で何が嘘かわかるよね。行き違いがあったなら訂正するし、傷付けているなら謝る。なにかに攻撃されるような事があれば、マリアを一番に護るよ。私がこういうことをするのは、マリアにだけだ。」
マリアの細くて白い指。そのまま指を絡めて、左手の薬指に口付ける。うーん。手が小さくて柔らかい。
「それに私は欲張りだから、マリアにはカッコいいって思われたい。私の婚約者で、妻でよかったと思われたい。だから仕事もするし、少しでも時間が取れれば会いに行く。毎日愛も伝える。」
「…会長は恥じとかないんですか。」
「うん?自分に負けるのは恥ずかしいかな。」
そう伝えると、ジルドがそうじゃなくて…と言いながら頬を染めている。なになに、深刻そうな顔をしてどうしたの?
「好きとか愛してるとか、かわいいとか。…伝えるの、恥ずかしくないんですか。」
ぼそぼそと小さい声でいうジルドが面白い。うん、君はちゃんと好きな子に素直になった方がいいと思うよ。
「伝えれば、こんなに可愛い反応が見られるんだよ?喜んでくれるし、言えば言うほど可愛くなるし。良い事尽くしなのに、《自分が恥ずかしい》って理由だけで伝えないのは勿体無いと思うけど。」
女の子って、愛されればそれだけ内側から綺麗になっていくよね。
マリアは初めて会ったときは可愛いって感じだったけれど、17歳のレディになってからは美しくもなってきて
セクシーなのもキュートなのもどっちも好きです。と、マリアに申告してみる。んふふ、困ってる困ってる。
「…その辺の男より、よっぽど男らしいですよ。」
「ほんとう?嬉しいな。」
ジルドの呆れた様なため息と、柔らかい笑いに。褒められちゃった。
なんてマリアに笑って、そんな学園生活が卒業まで続くと思っていたのに。
「マリアンナ・エルバは、王子を惑わし国を傾ける悪女です!!」
卒業パーティーのただなか、甲高く響く女の声。
私と共にいたマリアの肩が跳ね、不安そうに瞳が揺れている。
「マリア、大丈夫だよ。」
何が起こっているのかはよくわからないけれど。騒めく会場と、私達から距離をとる生徒たち。従者を一瞥すれば、頷き姿を消した。
さて、私はマリアを安心させるために腰を抱き寄せて、髪に口付けを落とす。私と目が合うと、落ち着いてきたのか微笑んでくれた。
うん、マリアはずっと笑っていてね。私が笑い返すころには、周りには生徒会の皆とその婚約者達。一様に困惑しているのが顔に出てはいるが、瞳はマリアを心配そうに見つめている。
「私の婚約者を、不当に貶めているのは誰かな。」
「イリアス様は、騙されているのです!」
私達生徒会の前に躍り出てきたのは、…ええと、なんだっけ。
確か庶民から特待生で入ってきた子だよね?私、マリアと生徒会の皆の婚約者以外、女の子に興味無くて覚えられないんだよね。
「スピカ様ですわっ、スピカ・ヴィヴィエ様ですっ。」
顔に出ていたのか、マリアが慌てたように小声で教えてくれた。
わぁ、ありがとう。流石私の未来の妻。お名前も判明したことだし、ヴィヴィエ嬢に向き直る。
「私は君に、ファーストネームを許した覚えはないんだけれど?」
なんで勝手に呼んでいるのかな。不敬罪で死にたいのかな?とは流石に言わないけれど、にっこり笑って圧をかけてみる。でも、無神経なのかどこ吹く風なのか彼女は私の顔を見て頬を染めている。…いや、気持ちはわかるよ。
両親のお陰で今世の私、結構な美形だからね。身長178㎝金髪碧眼の美丈夫です。で、王太子なわけで。ゲームとか小説の王子様みたいだよね。
…え、イヤイヤ、まさかね?
「私は、スピカ。あなたの運命の乙女です!!」
恋する乙女の表情で叫ぶヴィヴィエ嬢に、思わず頬が引きつる。
…この世界、乙女ゲームかなんかなのか!まってまって。
私、前世ではそういうものに全く興味がなかったから、ざっくりとしかわからないぞ!?というかそれで生徒会メンバーの顔が整ってるわけか。皆タイプの違うイケメンだもんね!…うん?でも、私をはじめみんな婚約者とは仲睦まじく生活している。
今日もそれぞれ婚約者をエスコートしているし。というか、卒業パーティーってゲームでいう所の最終回じゃない?主人公との初対面が最終回ってどういうこと?
「私の運命の乙女なら、ここにいるけれど。」
とりあえず、譲れない部分を主張しておく。マリアを抱きよせて、頭に頬を摺り寄せる。
サラサラでいい匂い。会場中の視線が私たちに向いている所為で、私がマリアに触れる度に遠巻きにこちらを見ている令嬢達から黄色い声が飛んでくる。
うーん、衆人環視もいいね。照れているマリアが可愛い。今日は私の色のドレスを着てくれているから、なおさら可愛い。
そんな私とマリアの様子が許せないのか、鬼のような形相でマリアを睨むヴィヴィエ嬢
ええ、なに。私のマリアにそんな目を向けるとか、死にたいの?
「っ、この女は悪女です!私をいじめ、イリアス様を惑わしているのです!」
「ふうん。…で?」
「えっ、」
私の言葉に、ヴィヴィエ嬢が固まって動かなくなる。
え?じゃないよ。
「マリアは初めて会った5歳の時から、私の心を捕まえて離さないからね。確かに、惑わされていると言われればそうかな?まぁ、私が望んでマリアに溺れているんだけれど。」
マリアの腰に手を添えて、瞼に口付けるとまた黄色い歓声が上がった。ふふふ、面白いなこれは、大勢の前で惚気られて、マリアも顔を赤くして私を睨んでくるし。
そんな可愛い顔をしてると、口も塞いじゃうよ?
「っ、で、ですが、マリアンナ様は私をいじめて…っ、そんな女が国母になどっ」
「証拠は?目撃者や証人はいるのかな。マリアは、君が嘘をついていると皆に納得させられるだけの証拠を、そろえられるよ。」
というか、さっきからマリアをこの女とかその女とか呼ぶの、やめてくれないかな。
私の名前を勝手に呼ばれるより腹が立つんだけれど…殺しちゃダメかな。
「しょ、証人は私です!目撃者も!証拠はいまは手元にありませんが、一週間前ドレスやノートを破られて…ッこの手だって昨日、その女に階段から突き落とされたから…ッ!」
「話にならないな。」
包帯を巻いている右手をこれ見よがしに掲げているけれど、なんの証拠にもならない。
寧ろそんな偽装しやすい物を証拠とするとか、甘すぎるでしょう。
「じゃあ、マリアの証拠に移ろうか。目撃者に話でも聞いてみる?」
「えっ」
「へっ」
ヴィヴィエ嬢と一緒になって、マリアからも気の抜けた声が上がる。ええ、なに。可愛い。
マリアに笑いながら指を鳴らすと、ジェラルド私の側近が隣に立ち、パラリと手帳を開く。
「僭越ながら、一週間前のマリアンナ様の行動記録を読み上げます。朝6時起床。その後身支度を整え7時より朝食。学園に向かい学業に専念され、休み時間はご学友と談笑。昼食はイリアス様、他生徒会の方々と専用サロンにて。午後の部も問題なく過ごされ、放課後は真っ直ぐ生徒会室へ向かい、生徒会の仕事をこなしております。その後、イリアス様と共にマリアンナ様の屋敷へ。イリアス様がご帰宅後、そのままご家族と晩餐。マリアンナ様は淑女教育と王妃教育を22時までこなし、身を整え就寝されています。」
「昨日は?」
「変わりなく。そもそも学園の三年生の教室はご存じの通り一階。生徒会棟は生徒会の方々しか入ることができませんし、特別教室はヴィヴィエ嬢と選択科目が違いますので、階段で行き会う事もありません。」
それから、とジェラルドがヴィヴィエ嬢を睨む。
「当然のことですが、マリアンナ様は未来の国母。イリアス様の婚約者様なのですから、常に影護衛が控えております。その者達からも、ヴィヴィエ嬢とマリアンナ様が接触したなどという報告は上がっておりません。」
「うん。これで証言と、目撃者が出たね。」
ありがとう。と、ジェラルドに告げれば、頭を下げて後ろに下がる。さすが私の部下、優秀だな。
ちなみに影護衛はみんなに見えていないだけで近くに居たりする。
その統括がジェラルドだからね。そう伝えたら、隣のマリアが絶句してそのままじわじわ赤面しはじめて
「っ、聞いておりませんわ!なぜ詳細なわたくしの行動記録などあるのですっ。もう、もう!」
軽い力でぽかぽか叩かれた。マリア、ヒールを履いても165㎝ないから、ちょうど頭一個分小さいんだよねぇ。
私の胸辺りを頑張って叩きつつ、でも気を使っているのか小声で抗議してて可愛い。
「マリアの身にもしものことがあったら、それこそ私が耐えられないよ。それに、今回みたいなこともあるだろう?」
役に立ったから許してほしいなぁ。とマリアの手を捕まえてお願いしてみる。ついでに眉根を下げて、小首を傾げている。
私のこのポーズ好きだよね?実際マリアは白い頬を紅潮させて、はくはくと声にならない声を出した後、渋々許してくれました。やったぁ。
「ぅ、ぐっ、でも!私が、私が運命の乙女でっ!」
ああ、そう言えばまだいたんだった。いまだ負けじと声を張る丹力は称賛するけれどね。恋する乙女が裸足で逃げだしそうなほど、ヴィヴィエ嬢の顔が歪んでいる。
「まだあきらめないなら、証拠も出そうか?ここは、《魔法学園》だ。学園内には多重の魔法がかけられていてね?監視システムがあるんだよ。一週間前と昨日だっけ。どこで突き落とされて、何時にいじめられたのかな。大丈夫、立体映像で誰にでもわかり易く、間違いようのない鮮明な映像が見られるからね。十分な証拠になるよ。」
笑いながらヴィヴィエ嬢に告げると、今まで固唾を飲んで成り行きを見ていた生徒たちや、生徒会の皆から厳しい視線が飛んできて。
それを一身に受けた彼女は真っ青な顔でガタガタと震えだした。
「こんなの可笑しいこんなのイリアスじゃないきっとこの女も転生者でっなんでっなんでこんなことにっわたしがヒロインなのに私が愛されるはずだったのに許せないゆるせない」
聴き取れもしない小さな声で、なにかぶつぶつと呟き続けている様はいっそ哀れで。
「どうしたの?いってごらん。…まさか、全部でっち上げで、私のマリアを貶める為についた嘘。なんていわないよね?だって、それは大罪だ。貴族と王族に対する不敬罪なんて、…斬首刑だ。」
許さないよ。そう告げると、ぼたぼたと涙を流しながらもマリアを睨みつけてくる。
「なんなのよっ!私はヒロインでっ…あんたは悪役令嬢じゃない!!ちゃんと役目を果たしなさいよっ!」
ヴィヴィエ嬢の怒号と気迫に、マリアの身体が震えている。
繋いだままの手に力がこもっていて怯えているのがわかる。大丈夫だよ、マリア。私がいるからね。
「マリアの役目は、私に愛されて、私の隣で笑うことだ。」
ヴィヴィエ嬢に怯えるマリアを抱き締めて小さな唇にキスをすると、ぼっと音がしそうなほど赤面した。わぁ。可愛い。
あんな女より、私を見てね?と耳元で囁くと、首が取れそうなほど頷いている。うん、私のことで頭がいっぱいって顔がすごくかわいい。
周りから黄色い悲鳴が聞こえてきて気分がいい。ふふふ。マリアの反応が面白くて、キスするのも違和感ないんだよなぁ。むしろ楽しい。
「じゃあ、後はよろしくね。」
誰ともなくいうと、人混みから私の護衛騎士たちが出てきてヴィヴィエ嬢をあっという間に捕縛して引きずっていった。口がきけないように真っ先に猿轡を噛ませる辺り、聞くに堪えなかったんだろうなぁ。
まぁ、私も同意見だけれどね。ちゃんと死刑にするよ。転生者の有用性より、あのタイプの人間って危険思考すぎるし。あと、王族的にどうやっても生かしておけない。なによりマリアに対する態度がいただけないよ。
「さて、白けちゃったね。うーん、」
ぐるりとホールを見渡す。皆何が起こったかいまだに状況を把握できていなかったり、困惑していたり。嬉々としているのは、たぶん私の行動に歓声を上げていた女生徒達だろう。女の子って、色んな意味で強いよね。
「今日はお開きにして、もう一度。今度は王宮で夜会なんて、どうかな?」
私の提案に歓声が上がる。うんうん、良かった。折角のパーティーだもんね。マリアも安心したのか、肩の力が抜けて。私と目が合うと、微笑んでくれた。
あれから。私はすんなりマリアと結婚して、初夜も問題なく。…そう、本当に何の問題なく営んだ。自分でも結構びっくりしたけれど、上と下は別の生き物って言うしなぁ。ただでさえ私はマリアが大好きで愛しているし、拒絶なんて無いんだもの。そりゃあ出来るよね。
遊戯板まで持ち込んで、私が気に病まないように準備してくれていたマリアには悪いけれど。それが余計にいじらしくて、押し倒したよね。ご馳走様でした。
あの時のマリア、可愛かったなぁ。まぁ、あれから毎晩可愛がっているんだけれど。そして、毎晩営めば実るもので。結婚して六ヶ月ほどでご懐妊でした。
「お腹が前に出てるから、男の子かなぁ。」
妊娠も八ヶ月目になって、大きくなったお腹を優しく撫でる。もういつ出てきてもおかしくないから、万全の準備をさせてある。好きなときに出ておいで。
「そうなのですか?…男の子だと、いいですね。」
眩しそうに、目を細めて微笑むマリアに口付ける。最近は、照れずにちょっと頬を染めて笑ってくれるようになった。綺麗になったね。
「元気に生まれてくれればどちらでもいいよ。先に生まれるのがどちらか、っていうだけだからね。」
「えっ、」
「…、まさか、一人で終わると思ってる?私、子供好きだから少なくても三人は欲しいなぁ。勿論、マリアの安全が第一だから一人でも大丈夫だよ。」
もし女の子一人なら、国内外から婿を探して、この子の好みの子を教育すればいいだけだ。
その為に市井に教育体制も引いたし、出生率を上げるために前世の記憶から月経妊娠出産などの、女性の身体の仕組みの本まで作って医師達に配って講習会もした。ゆくゆくは産婦人科を確立させるよ。
「私達みたいに、恋して、愛し合って、夫婦になって欲しい。私はこれからも君のために生きていたい。」
君がいたから、この国が好きになった。君が私を愛して、この国を愛しているから、私は王を継ぐことを決意した。君の大切なもの全てを守れるように。
「…、そう言えば、」
ふと、昔を思い出してマリアを抱き締める。お腹に負担がないように、後ろからそっと。
「親友では、いられなかったね?」
私が耳元で囁くと、ぼっ、と顔を赤くして。ああ、可愛いなぁ。私の妻は。
これだけ幸せなのだから、案外、転生するのも悪くない。
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