117人が本棚に入れています
本棚に追加
「この簪の持ち主であろうその女性の霊を憐れんだのだ」
そんなばかな!
呪われて殺されそうになる私よりも、呪い殺そうとする悪霊のほうに同情するなんて。
ぽかんとする紗紀の前で、一空はやれやれとため息をつく。
「まったく。そうやって、すべて霊のせいにする奴がいるから困ったものだ」
「でも、女の霊が現れて」
「その女は、願いを聞いてもらおうと現れただけ」
「願い? 呪いではなくて?」
紗紀は首を傾げる。
「自分の姿が視える人が側にいる。もしかしたら今生に残した未練を聞いてもらえるかもしれない。そう思い、姿を現したというのに、その相手は願いを聞いてくれるどころか、悪霊扱いされ、さらに無慈悲なことに大切なもの、すなわち、この簪を売り飛ばそうとしている。ひどいものだな」
口調は丁寧だが、棘のある言い方だ。
きれいな顔をしてこの人、しれっときついことを言うのね。
「後ろを振り返ってみろ」
命令口調にムッとしたが、言われるまま後ろを振り返る。
「ひっ!」
紗紀は悲鳴を上げた。
すぐ後ろに、着物を着た女性がたたずんでいたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!