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それだけではない。
不幸は止まらず、退職したその日、横断歩道を渡っていた女子中学生めがけて信号無視をした乗用車が突っ込んできて、咄嗟にその中学生をかばった姉は車に撥ねられた。
幸い足の骨折だけで済み、現在入院中だ。
それだけで済んだのは奇跡的だと医者は言うが、あまりにも立て続けに不幸が続きすぎて、これはもはや偶然とは思えない。
それもこれも、簪を手にしてから直後に起こったことばかり。
「ってことは、最後は紗紀に不幸が起きる番か」
「やめてよ。もうじゅうぶん不幸よ。もしかしたら大学だって辞めなければいけないかもしれないのに」
紗紀は暎子を睨みつける。
両親はお金の心配はするなと言ってくれたが、父の治療費のことを考えると、のんきに大学に通っているのも難しい。
「それは困ったわね。で、その呪いの簪とやらを、いつどこで手に入れたのよ」
フルーツがたっぷり乗ったタルトのいちごをフォークで突き刺し、暎子は口に運ぶ。
周りでは女性たちが笑い声を発しながら楽しそうに会話をしているのに、霊だの呪いだのと、お洒落なカフェで話すにはまったくそぐわない内容だ。
「それが分からないの。いつの間にかあったというか」
「そんなばかな」
「本当よ。茨城の実家から東京に一人暮らしをするときに荷物の中にまぎれ込んだのかなって」
紗紀の答えも曖昧であった。
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