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「じゃあ、元々その簪は実家にあったってわけでしょう。だとしたら、いきなり家族に不幸が起きるっていうのも変だと思わない? 以前から実家にあったんだから」
「それが……簪のことを両親に聞いてみたんだけど、そんなものは知らない、見たこともないって言うの」
フルーツタルトを食べ終え、紅茶を飲んでいた暎子の目が、何か気づいたというように閃きを放つ。
「分かった。その簪、紗紀が住むアパートの前の住人の物よ!」
「それは絶対にない。だって、私の住んでいるアパートは新築で、あの部屋に入居したのは私が最初だもの」
だから、前の住人が置き忘れていったということはあり得ないのだ。
「ふうん、ますます、いわくつきっぽい感じがするわねえ」
「うん……」
食べる気をなくした紗紀はフォークを皿に戻した。
そんな紗紀を暎子は上目遣いで見る。
「その簪って、どんな感じなの?」
「年代物っていうのかな、古い感じ。作りは繊細な感じで、何て言うのかな、価値がありそうな」
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