あと3センチ

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「…絶対誰にも言うなよ」 「何を?」  耳元で囁く俺の声に首を(すく)めて、悠斗は俺の手をそっと掴んだ。 「何を?じゃねぇーよ」 「ははッ」 「…笑ってんじゃねぇーよ」  10年一緒にいて上目遣いで見られたのは初めてだ。堪らなくかわいい。  俺は悠斗の左肩を抱き寄せ歩き始めた。  身長がほぼ同じだから、横を向いたらすぐにでもまたキスができそうで…変に鼓動が速くなる。 「龍平先輩の写真、速攻で削除しろ。代わりに俺がもっと良いモノくれてやる」 「…な、何だよもっと良いモノって」 「お前が望むモノなら何だってくれてやるよ」  誰もいない正門までの一本道を抜けて、ちょっと太った三日月を背負いながら駅に向かって歩いて行く。 「離せよ、歩きにくいって…」  力強く抱き寄せられているせいで、悠斗が歩きにくいのには気付いてたけど…  離すかよ、バカ。  さっきのあのキスが、一瞬の気の迷いだったんだとしても構わない。  流されただけだったんだとしても別に良いんだ。  絶対に言わないと決めていた。  絶対に叶わないと諦めていた。  悠斗を失うくらいなら、自分に嘘をついてでも親友でい続けるつもりだった。  嫉妬はしたけど、龍平先輩の写真は俺にとっての希望の光だった。  男だからって理由で引かなくて良いんだって、知る事ができたから。
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