私が死んだらこうやって憑りついてあげる

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 その時。  ふわりと何かが背中に覆いかぶさってきたように感じた。  はっと顔をあげた。  でも背中には何もない。  しかし重さは感じる。  この感覚は……。  そして、ささやくような声が聞こえてきた。 『だーれだ』 「な、奈津美……?」  僕の言葉に、隣にいた奈津美の友人が「え? なに?」と尋ねてくる。  でも僕にはそれどころではなかった。  背中に奈津美がいる。  奈津美を感じる。 「……な、奈津美なの?」  つぶやく声に、背中にいるものが『そうだよ』と返事をした。 「なんで……どうして……」  疑問を口にしようとして、「あっ」と思い出した。 「私が死んだら、こうやって憑りついてあげるね」  彼女が死ぬ前日に言った言葉だ。  もしかして……憑りつきにきてくれたのか?  さすがに奈津美の友人が「ねえ、大丈夫?」と顔を覗き込んできた。  どうやら彼女には奈津美の声が聞こえていないらしい。 「奈津美が……奈津美がいるんだ。僕の背中に……」 「ちょっと何言ってるの? 変な冗談やめてよ」 「本当なんだ。奈津美が……」  すると奈津美が彼女に声をかけた。 『すずちゃん、彼をここまで連れて来てくれてありがとう』  声が聞こえていない奈津美の友人は怪訝な顔で僕を見つめている。  僕は奈津美の声を代弁した。 「すずちゃんっていうの? 僕をここまで連れて来てくれてありがとうって言ってる」  すずちゃんと呼ばれた奈津美の友人が、目を見開いて僕を見た。  名前を呼ばれたことに驚いたらしい。 「ど、どうして私の名前を……。まさか本当に……?」  さらに耳元で奈津美がささやく。  僕はそれを伝えた。 「それから……姪御さんのことは気にしないでって言ってる」 「ほんとに!? ほんとに奈津美なの!? 奈津美がいるの!?」
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