7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
奈津美と初めて出会ったのは大学1年の講義の時だった。
卒業までの必修課目で、大勢の学生が講義室を埋め尽くす中、隣に座ってきたのが彼女だった。
「隣、いいですか?」
僕は初めて彼女を見た時、目を見張った。
バイクで通学しているのだろうか、ライダースーツに身を包んだ彼女は明らかに周囲から浮いていたからだ。
そして僕が答える間もなく隣に座る無遠慮な態度に、僕は少なからず嫌悪感を覚えた。
けれども。
講義が始まるや否や、真剣にメモをとる彼女の姿に、目が釘付けになってしまった。
なんて……なんて綺麗な横顔なんだろう。
すらっとした鼻、整った眉、意志の強そうな瞳。
すべてが僕が今まで出会ったどんな女性をも凌駕していた。
僕がずっと見つめていたからだろうか、彼女も僕に顔を向け、
「なに?」
と聞いてきた。
その時、僕はなんて答えたか正直もう覚えていない。
でも、それがきっかけで僕らはよく話すようになった。
「次の講義は最悪だね」とか「来週は休みらしいよ」とか。
当たり障りのない会話ばかりだったけれど、僕にはそれがすごく嬉しかった。
そうこうするうちに、彼女が僕の背中に抱きついてくるようになった。
「だーれだ」
彼女にとってはなんてことのないお遊びだったのだろうけど、初めて抱きつかれた時は心臓が縮み上がるくらい驚いた。
「ぎゃああぁ!」
周囲の学生が振り向くほどの叫び声に、奈津美のほうが逆にビックリしてひっくり返りそうになっていた。
「な、な、な、奈津美……?」
「ぷくく、溝口くん驚きすぎ」
「いやいや、驚くよ。だって……」
「だって?」
「……いや、なんでもない」
「言いなさいよ、このー!」
再度のオン・ザ・バックに、きっと周りの人たちは「リア充爆発しろ」とか思ってたに違いない。
なにはともあれ、これがきっかけで彼女はよく僕の背中におぶさるようになった。
最初のコメントを投稿しよう!