私が死んだらこうやって憑りついてあげる

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 奈津美(かのじょ)と初めて出会ったのは大学1年の講義の時だった。  卒業までの必修課目で、大勢の学生が講義室を埋め尽くす中、隣に座ってきたのが彼女だった。 「隣、いいですか?」  僕は初めて彼女を見た時、目を見張った。  バイクで通学しているのだろうか、ライダースーツに身を包んだ彼女は明らかに周囲から浮いていたからだ。  そして僕が答える間もなく隣に座る無遠慮な態度に、僕は少なからず嫌悪感を覚えた。  けれども。  講義が始まるや否や、真剣にメモをとる彼女の姿に、目が釘付けになってしまった。  なんて……なんて綺麗な横顔なんだろう。  すらっとした鼻、整った眉、意志の強そうな瞳。  すべてが僕が今まで出会ったどんな女性をも凌駕していた。  僕がずっと見つめていたからだろうか、彼女も僕に顔を向け、 「なに?」  と聞いてきた。  その時、僕はなんて答えたか正直もう覚えていない。  でも、それがきっかけで僕らはよく話すようになった。 「次の講義は最悪だね」とか「来週は休みらしいよ」とか。  当たり障りのない会話ばかりだったけれど、僕にはそれがすごく嬉しかった。  そうこうするうちに、彼女が僕の背中に抱きついてくるようになった。 「だーれだ」  彼女にとってはなんてことのないお遊びだったのだろうけど、初めて抱きつかれた時は心臓が縮み上がるくらい驚いた。 「ぎゃああぁ!」  周囲の学生が振り向くほどの叫び声に、奈津美のほうが逆にビックリしてひっくり返りそうになっていた。 「な、な、な、奈津美……?」 「ぷくく、溝口くん驚きすぎ」 「いやいや、驚くよ。だって……」 「だって?」 「……いや、なんでもない」 「言いなさいよ、このー!」  再度のオン・ザ・バックに、きっと周りの人たちは「リア充爆発しろ」とか思ってたに違いない。  なにはともあれ、これがきっかけで彼女はよく僕の背中におぶさるようになった。
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