私が死んだらこうやって憑りついてあげる

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「ここにね、奈津美が眠ってるの」  彼女の言葉を受け、僕は墓の前にしゃがみこむと線香に火をつけた。  そしてそっと墓石の前に立て、手を合わせる。  瞬間、彼女との思い出が頭の中を駆け巡った。 「だーれだ!」と言いながら抱きついてきた奈津美。 「次の講義は最悪だね」とささやいてきた奈津美。 「溝口くんが保育士さんでも、きっとみんな楽しいと思うよ」と励ましてくれた奈津美。  たくさんの彼女の姿がフラッシュバックする。  僕の大好きだった奈津美。  いつもそばにいてくれた奈津美。  でも、もういない。  自然と目から涙があふれ出た。 「奈津美……。君ともっともっとしゃべりたかった……」  奈津美と過ごした2年間。  どれもこれもが光り輝いていた。  キラキラキラキラと幸せに満ち溢れていた。  たった2年間だったけれど、今までの僕を大きく変えさせる2年間だった。 「君ともっともっと触れ合いたかった……。もっともっと一緒に……生きたかった」  彼女の温もりが忘れられない。  僕は墓の前でうずくまると、今まで我慢していた想いがせきを切ったかのようにあふれ出してきた。 「奈津美……うぐふうぅぅ……奈津美ぃ……」  こうなってくると、もう止められなかった。目からとめどもなく涙があふれてくる。  今まで見て見ぬフリをしてきた奈津美の死を、僕は今、ようやく実感している。  そうだ、僕は逃げていたんだ。  彼女の死から目を背けていたんだ。  けれども、こうして墓の前に立つと嫌でも受け入れざるを得ない。彼女は死んだ。もう二度と会えない。  僕は墓の前でうずくまりながら奈津美の名前を呼んだ。  何度も何度も。何度も何度も。 「溝口くん……」  隣で彼女の友人のすすり泣く声が聞こえた。
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