私が死んだらこうやって憑りついてあげる

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 ガバッと僕の袖をつかんで顔を寄せてきた。  その表情は真剣そのものだった。 「う、うん。見えないけど、僕の背中におぶさってる」 「ごめん! ごめんね、奈津美!」  すずちゃんは叫んだ。  僕にではなく、僕の背中に向かって。 「私の姪を助けようとしたんだよね!? 姪を助けようとして、かばってくれたんだよね!? 私、後悔してる! あの日、あなたに姪のお()りをお願いしたこと、すっごく後悔してる!」  僕に詰め寄ってくるすずちゃんに、彼女は優しく声をかけた。 『すずちゃんは全然悪くないよ。だから自分を責めないで』 「すずちゃんは全然悪くないって。だから自分を責めないでって……」  彼女の言葉を代弁すると、とたんにすずちゃんは僕の懐で泣きだした。 「奈津美ぃ、ごめんね……ごめんね。ありがとう……」  泣きながら崩れ落ちるすずちゃんを見て、彼女も心に傷を負っていた一人だったんだなと改めて気づかされた。 『それから溝口くん』 「なに?」 『最後にあなたに会えてよかった』  最後という言葉に、足が震えた。 「最後ってなに? ……僕に憑りつくんじゃなかったの?」 『だって私、重いでしょ?』 「そんなことないよ! 君がいないほうが……ずっと重い……」 『ごめんね。でも、私との思い出は消して新しい道を歩んで』  ゴウッと強い風が吹く。  瞬間、僕の背中にあった重みが消えた。 「待って! 行かないで! 僕の背中に憑りついてよ! お願いだから!」 『今までありがとう、溝口くん。大好きだったよ……』 「奈津美いぃッ!」  僕の叫び声とともに、彼女の気配は消えた。  あとに残ったのは、静寂に包まれた霊園だった。  今のは夢だったのか、幻だったのか。  隣で泣きながらうずくまるすずちゃんの姿を見て、僕はまた涙を流した。
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