私が死んだらこうやって憑りついてあげる

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「だーれだ」  大学構内を歩いていると、突然背中にずしりと重みを感じた。  誰かが僕の背中におぶさってきたらしい。  いや、誰かなんていうのはわかっている。 「この重さは奈津美(なつみ)だね」 「“この重さ”は余計です」  ビシバシとチョップをかまされながら振り向くと、やっぱりそこにいたのは奈津美だった。  黒色のジーンズパンツに白色Tシャツ、デニムの袖なしジャケット。  180㎝ある僕よりも2㎝だけ低い彼女は、今日もばっちり決まっている。  背中まで届く長い黒髪に白いキャップはなぜかその姿にマッチしていて、「可愛い」というよりは「かっこいい」という形容詞がよく似合う。 「あのねぇ、溝口(みぞぐち)くん。女に“重い”って言うのは禁句だよ?」 「だったら毎回毎回背中におぶさって来るの、やめてくれない?」 「だって溝口くんの背中を見ると、抱きつきたくなるんだもん」  わけがわからない。  別に彼女とは恋人でもなんでもない。  大学1年の春に知り合っただけの単なる同期生だ。  それでも、彼女はことあるごとに僕にちょっかいを出してきた。  それも身体を密着させてのスキンシップだ。  20年あまりの人生で一度も彼女ができなかった僕にとって、彼女のこの行為は刺激が強すぎた。 「だったらその……僕の許可を得てから抱きついてよ」 「えー。それじゃあビックリさせられないじゃない」 「ビックリさせたいから抱きついて来るの?」 「ううん、抱きつきたくなるから抱きつくの」  どっちだよ、と思ったけれど、彼女の笑顔がまぶしくてそれ以上は聞けなかった。
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