隣の席の地味子がおれの推し

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 遡ること、数分前。  美化委員に所属しているおれは、校内美化の啓発ポスターを学校中へ張って回っていた。  西校舎の1階と2階を繋ぐ階段の踊り場。そこの掲示板の前でポスターを広げていると、こつこつとこちらに近づいてくる足音が聞こえた。  なにとなしに足音が聞こえる方を見ると、階段を降りてくる見知った女子生徒の姿があった。  前髪を七三分けにした三つ編みに、大きな眼鏡。崩されることなくきっちりと着られている制服。どこか野暮ったい外見をした彼女は、同じクラスで隣の席の相生 真里子だ。  病気がちでよく学校を休む彼女とはほとんど会話をしたことがなく、おれはなんだか気まずくて掲示板の方を向き直った。  するとその時……。 「あ」  なんて、気の抜けた声がしたので再びそちらを向くと──階段を踏み外した相生の体が落下している所だった。  おれはぎょっとして持っていたポスターを投げ捨てると、急いで彼女に駆け寄った。  なんとか相生の体を抱きとめたが、踏ん張れずそのままおれは踊り場へ背中から倒れた。 「う、植田くん! 大丈夫?? 頭打ってない?? ごめんね、ごめんね!」 「……大丈夫、平気。相生こそ、怪我はない──?」  おれの上に乗っている彼女の顔が直ぐそこにあるのだが、落下の衝撃で眼鏡は外れ前髪も崩れていた。そんな相生におれは見覚えがあった。それに初めて聞いたと言っても過言ではない彼女の声もおれはよく知っていた。  そう、このおれが気がつかないはずがない。彼女は── 「相澤……マリン」  スーパーアイドル・相澤 マリンだ。
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