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同じ大学に進学したところで、僕は平野さんと正式にお付き合いさせてもらうことになった。ほんとうに平野さんは美しいからどこの男子からも目をつけられる――そんな目線から身を挺してお守り申し上げるのが日常的な僕の役割である。
僕は相変わらずデブでブサイクで冴えないモブ男子だ。なけなしのお金をはたいてジムに通っているのだけれどどうしても痩せない。そのたびそれなりに凹む。うーん、どうしたらいいのかなぁ、どうしたら痩せるのかなぁ。食事の量自体は絶対に減っているのだけれどなぁ……。
だけど、僕が太っていても平野さんはそばにいてくれて、むしろ彼女からすればデブなフォルムの僕のほうが愛おしいらしく。だったらいまのままでいいのかなぁ、現状維持でいいのかなぁ……。
そろそろ色づいてきた構内のイチョウを見上げていた。最近定例的になりつつある、平野さんとの待ち合わせ場所だ。――「タナベ!」という叫びにも似た彼女の声。僕が慌てて振り返ると抱きついてきた。「ほんとやめてくれないかな僕はきっとあなたにふさわしいにんげんではないのだから」――などという極度に後ろ向きな物は言わなくなった。
いま、僕はとても平野さんのことが好きだ。
平野さんも、どうやら僕のことを大切に思ってくれているらしい。
抱きつき、僕の左の耳元で、平野さんは囁いた。
「抱いてよ。抱いて抱いて抱いて。ぜひともそのルルーシュの声であたしをイカせてくれませんかぁ?」
はてさて、平野さんが好きなのは僕なのかルルーシュなのか。
どうあれ僕に唯一与えられた武器は、イケボしかない。
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