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たしかにあたしはおまえを裏切るような真似をした。
僕自身、そんな気持ちに駆られてはいるのだけれど、どうあれそこにあるのは平野さんの自由で……。
平野さんはベッドのふちに腰掛けていて、僕はカーペットの上で――失礼ながらもあぐらをかいている。
「おまえ、助けてくれたじゃんか。連中は近所でも有名なアホ高校の生徒なのに。すげー勇気だなって思った。カッコいいとすら思ったよ」
「えっと」
「なんだ?」
「誰でも同じような行動をとったと思うよ? 違うかな?」
「誰で持ってんなら、あたしの恋人とされたあのアホはどうしてとんずらこいたんだ?」
「それは……」
僕は苦笑を浮かべ、俯き加減で、右手で頭を掻いた。
「決めた」
「なな、なにをだい?」
「あたし、あんたの恋人になってやっから」
当然僕は「えっ!」と驚きに満ちた声を発したわけだ。
「だだっ、ダメだよ。僕の恋人なんて、ダメだよ」
「デブチンよ、おまえはどうしてそんなふうに言うんだ?」
「それは一般常識じゃないか」
平野さんは尊いまでに微笑んで――。
「自慢しろよ、おまえ。あたしみたいな美少女をカノジョにできたってんだから、大いに自慢しろ」
「えっ、えーっ」
「おまえはヒーローだよ」
「えっ」
「おまえには勇気がある。カッコいいよ」
「そんなの錯覚じゃあ……」
「るせーっ! テメーはカッコいいんだよ!!」
言われて悪い気はしなかった。
だけどどうしたって弱気の虫が顔を覗かせる。
「だけどセックスはダメだ。まだダメだっ!」平野さんは笑った。「でも、現段階でも、髪に触るくらいは許してやるぜ」
平野さんが抱きついてきた。
耳元で「いつかイイ感じで抱いてくれよな、ルルーシュ」と囁いた。
「あいにくですけれど、僕はルルーシュではないですよ」
「ああ、そうだな、そうだった。おまえはデブでブサイクのタナベだ」
酷い言い方だ。
だけど微笑みの気配ばかりが込み上げてきて、苛立ちは覚えなかった。
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