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今日も今日とて僕の部屋。ベッドの上には平野さんがまるでビビっているかのようにぺちゃんと座っている。抱き締めて抱き締めてそれはもう――ああだこうだしてやりたい――なんて嘘だ。恐怖だ。僕は引っ込み思案の権化だ。だからつまるところ平野さんにはいっそソッコー、帰っていただきたいわけだけれど……。
「おいこらテメー、なんかしゃべれよ」とは平野さん。
「えっ?」と僕はそれなりに戸惑う。
「だからしゃべれよ。あたしは――ああぁ、ああああぁっ!」なんていう怒りに満ちているとしか思えない声を発しつつ、ベッドの上で膝立ちになったのである、平野さんは。程良くイヤラシイ太ももを、僕は凝視したいのかそうはしたくないのか……。
僕は女性にはまるで耐性がないものの、平野さんときたら「しゃべれ! ばか! タナベェェ!!」などと指を差し差し迫ってくるのである。
なんだかもうなんなので、僕は相手をしてやることにした。
ささやくように漏らしたのだ、「平野さん」と。
途端、平野さん両手をそれぞれ頬に当て、「ひゃぁっ、ひゃぁんっっ!」などとこちらが気絶しそうになるくらい猥褻な喘ぎ声を発した。「声フェチ」だということはもはや自明の理。にしたって僕はデブでブサイクで冴えない一匹の男子でしかないわけだ。うへぇ、怖ろしい。少々声がいいというだけで重宝されてしまうのかぁ。
「やだぁ、やだぁっ、エロい声出すなよぅ、たかがタナベのくせにぃぃぃっ」
エロい声、ほんとうにそんなものを発したのかと、その疑問について僕は少々眉をひそめる。というか、「しゃべれ!」と要求してきたのは平野さん、貴女ではなかったか……。
「ルルーシュだ! おまえはどうあれルルーシュなんだ!!」
「い、いえ。僕は彼ほどしゅっとはしていません」
「でも声はルルーシュなんだよぉぉぉっ! おまえはそのへんしっかり自覚した上であたしに謝りやがれ!!」
「えっ、えぇぇっ、なにを謝れと!?」
「ルルーシュはカッコいいだろうが! おまえはカッコ悪いだろうが!!」
「えっ、えぇぇ……」
「ルルーシュが好きなんだっ、あたしはルルーシュが好きなんだっ!」
「それはもうわかりましたけれど……」
僕には臆して顎を引くくらいの選択肢しかなかった。
「マジふざけんなよ。なんでテメーみてーな汚物がルルーシュなんだよ」
「えぇーっ」
「いっそ死ねよ。マジでふざけんな」
「えぇぇーっ」
「驚いてばっかのテメーに質問だ」
「は、はいっ」
「声に惚れるのはナシか?」
「えっ」
「ナ、ナシかって訊いてんだよ」
僕は返答に窮した。
すると平野さんはまたベッドの上でマンガを読み始めた。
「そのへん、しっかり考えとけよな」
などと言われてしまった。
しっかり考えとけって、いったいどういうことだろう……。
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