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ぼくたちパーティーは街の酒場で祝勝会の真っ最中――のはずだったのだけれど……。
真っ白な肌をした回復術者――ヒーラーのアシュリーが、向かいの席に座るなり、「プルートさん。リーダーとして申し伝えます。あなたは今日限りでクビですわ」などと突然言った。
当然、ぼくの目は点になったわけで。
「えっ? なんの冗談?」
「冗談などではございませんわ。もう一度、はっきり言いますわね。本日付をもって、あなたを我がパーティーから追放します」
「そ、そんな、どうして?!」
「どうしてって、もう要らないからですわ」
嘘だ。
今日の巨大シルバーバック戦だって、ぼくがいなかったら――。
「トレンドは取り入れて、しかるべき。端的に言ってしまうと、防御魔法がかつてないほどの盛り上がりを見せていて、防御術者、すなわちディフェンダーがひっぱりだこになっているのですわ」
ぼくは高圧的に聞こえるからという理由でアシュリーの口調が苦手で、だけど、いまはそんなことを考えている場合ではなくて。
「ディフェンダーのバリアで敵の出足を食い止めつつ、その隙に攻撃術者のマジシャンがズドン。これからずっと、その戦法が主流になるのですわ」
「じゃあ、ぼくみたいな人間は……」
「ええ。あなたみたいなただのウォリアーは、食いはぐれる運命なのですわ」
「えっ、えっと、でも、ぼくは"最強の盾"と呼ばれるほど――」
「ディフェンダーのほうが上ですわ。そうでなくとも肉体労働が得意なだけでスマートさに欠ける壁職なんて……。必要とされなくなるのは、きっと時間の問題だったのですわ」
アシュリーはきれいな顔を卑屈そうにゆがめて「ふふ」と笑う。釘を刺すように「ギルドにでも通うことですわね。まあ、誰にも相手にされないことでしょうけれど」と言って席を立ち、ほかのメンバーを引き連れて店を出ていった。
取り残されたぼくはジョッキの取っ手を握り、飲めもしないビールをぐびぐびとあおって――力なく肩を落とす。
いくらなんでもあんまりだ。いままでぼくほどパーティーに尽くしてきた人間はいなかったはずだ。ぼくが強い覚悟をもって身体を張っていたからこそ、ほかのメンバーが活きたのではないか。だけど、防御魔法に特化したディフェンダーが、前衛職――すなわち壁職の役割を万能的に担うのが、新たなパーティー戦略の基礎となることは知っていて、だからひょっとしたらこんな日が訪れることになるのではないかと予感していたような気もして……。
とにかく、いまはなにも考えられない。
家に帰ろう。
悲しいことに、支払いはぼく持ちだった。
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