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食事を終えたところで、ぼくは「じゃあ、きちんと言うね」と切り出した。するとメグは「ちょい待ち。あたしも先に食べちゃうわ」と言い。かまわず「ぼくはきみのことが好きみたいなんだ」と告げた。口からも鼻からもシチューを吹き出したメグ。げほげほと激しく咳込む。「はっ、鼻がっ、鼻が痛い!」と叫びながら、右手でテーブルをばしばし叩く。
「もう一度言うよ? ぼくはきみのことが好――」
「そそ、それはわかったっつの! この変態め! いい大人が女子高生に恋しちゃったとか! 犯罪だぞ、こんちくしょうっ!」
「えっ、犯罪なの?」
「あたしが元いた世界ではな!」メグは胸に手をやった。「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせる。「つーかあんた、さっきは襲うようなことにはならないって言ったよね?」
「それはあたりまえ」ぼくは至って真面目顔。「そういうことをするのは、結婚したあとの話じゃないか」
「あ、うん。プルート君、きみならそうおっしゃいますわな。かるーい気持ちでのエッチな行為はよろしくないとぴしゃりですわな」
「うん。でも、ずっと一緒だと、いつかは襲いたくなるかもしれな――」
「ええい、結局どっちだ、この天然ものがぁっ!」
いつもの調子――すごく元気に怒鳴るメグ。
ぼくは笑った。
メグも笑う。
だけど、ぼくから「ほんとうに大切なことなんだ」と伝えられると、真剣な顔をした。それから目を伏せ、どことなく悔しそうに見える雰囲気を漂わせた。
「違う……でしょ」
「うん?」
「あたしに好かれちゃうのが……ううん。あたしがもうあんたに惚れちゃってることが、まずいんでしょ……?」
ぼくはまた――否。さっきより深い笑顔をつくった。
「そうだよ。だってメグ、きみには幸せになってほしいから。好きだからこそ、大切だからこそ、お別れしたいんだ」
立ち上がったメグは「い、いいよ、あたし。あんたの田舎だろうがどこだろうが、どこにだって付き合ってあげる」と言う。「それこそあたしのことが好きなんだったら、ねぇ、いいでしょ?」と切実そうに訴えてくる。
ぼくは首を横に振った。
「きみがいた世界ほどではないかもしれないけれど、この世界だって広いんだ。きみはもっとたくさんのことを知ったほうがいい。その上で身の振り方を決めるべきだ。盲目的なのはよくないよ」
「あたしのダンナ様にしてあげるって言ってるんだよ?」
「お断りします」
その一言が、メグを怒らせた。テーブルを回り込んで近づいてくるとぼくの左の頬を張り、「プルートの馬鹿ぁっ!」と叫んで家から飛び出していってしまった。ポールハンガーに引っかけてあったとんがり帽子だけはきちんと持っていった。このまま戻ってこなければいいのにと思ってしまうぼくは、かなり嫌な奴なのだろうか。
――そのときだった。
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