1.激辛ラーメンとの出会い

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*****  その日、ギルドからの帰りにおいて、激辛ラーメン屋に寄ったのである。街の裏路地にある店で、まえから訪れたいとは思っていたのだけれど、辛い物を食べておなかを壊しでもしたら、翌日の"勇者"の仕事に支障をきたしてしまう。辛い物。ぼくはもともと好きなのだ。考えるだけでも唾液が湧く。幸い、いまはひまだ。だから思いきって、暖簾をくぐったのである。カウンター席に座り、一番の名物を頼んだ。  おいしかった。  おいしかったのである。  スープまでまるっとたいれげてしまうくらい、おいしいものだったのだ。  ぼくはぼそぼそと、その旨、訴えた。  とてもおいしいですね、ありがとう、と礼を述べた。  すると――。 「ウチの店、今日で最後なんだよ」 「えっ!?」 「旦那がダメなのさ。もう長くないって言われてる」 「そ、そんな……」 「誰か後継ぎがいるといいんだけどねぇ。ウチのはおいしいからねぇ」  店の(あるじ)――その人物に近しいであろう女性――きっと奥さんであろう人物からそう聞かされて、ぼくは戸惑った。 「ほんとうに最後だ。これからウチの旦那は、くたびれていくばかりなんだ」 「ほんとうに?」 「嘘をついて、どうするんだい」 「だったら、ぼくが――」 「ぼくが、なんだい?」 「ぼくが一生懸命、あとを継ぎます!」  気がついたら、そんなことを口走っていた。  とっさの反応ではあるけれど、運命だけは感じた。 「『伝説の勇者』だろう? 知ってるさ、そのくらい。妙な威厳と迫力があるからね。一度見たことがあるし、いまもそんな雰囲気でここにいる。そんな男がラーメン屋かい? 笑わせるんじゃないよ。冗談はよしな」 「本気です。がんばりたいです」 「あんた、なにかあったのかい?」 「つらいことが、あったんです」 「一歩踏み入れたら最後、ひき返せない仕事だよ? 舐めるなって話さね」 「それでも、やりたいです。がんばります」 「ウチの名物はわかるかい?」 「真っ赤な唐辛子を使った、辛味噌ラーメンです」 「そうだよ。それだ。あんたに出してやった、それだ」  やっぱり赤唐辛子が大切なんだ。  そう言って、おばちゃんは笑った。
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