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小さくはない国家の第四王女さまが、ほんとうにやってきた。高価な生地を使っているであろう真っ白なブラウスを着てやってきた。腰巻きの白いエプロンをつけ、ぼくがじっと凝視していると、「な、なによ。なに見てるのよ、このスケベ。さっさと仕事、しなさいよ」――朝の八時半のことである。
「すぐに出せます。下ごしらえは済んでいますから」
「そ、そうなの?」
「じつはルーチンワーク化されています」
そんなふうに言うと、おばちゃんにぽかっと頭を叩かれた。
「ルーチンワークだなんて難しくて偉そうな言葉を使うんじゃないよ。あんたは毎日仕込みをがんばっているんだ。そのがんばりのうえに、ウチの味は成り立っているんだよ。それだけでいいんだよ」
「そう言っていただけると、とても嬉しいです」
ぼくは大きく頷くと、自然と笑顔になった。
「それで、なにをすればいいの? 配膳係だけやればいいの?」
「王女さま、どこまで本気なんですか? それこそ、とことん誠実であってくださらないと――」
「わかってるわよ。しっかりやってくれないと困るんでしょ? やるわよ。あんまり舐めないでよね」
「だったら、働いていただきますけれど」
「じつはそれって、そちらのおばさまが決めることじゃないの?」
おばちゃんは「それは違うね、王女さま」と言い、でっぷりとした胸を張り、「いまの主人はこちらの『勇者さま』だ」と伝えた。王女は眉間にしわを寄せた。「それはもう、がんばってやるんだからっ」と、そっぽを向いた。
この先、やっていけるかはわからないけれど、とりあえず、店員が一人増えた。王女さまへの給料、どれくらいが、適当なのだろう……。
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