君……だれ?

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 仕事が終わり、一人居酒屋に向かう男。 「いやー、終わった終わった。今日はたくさん飲むぞー」  すると後ろからいきなり肩をポンと叩かれる。振り返るとスーツ姿の男が立っていた。  「よ! 久しぶり。元気か!?」  「え!? 誰ですか?」  「なに敬語使ってんだよ。俺ら同級生なのに」  「はい、はい? 誰?」  「オレだよ、オレ。もう忘れたの?」  「……ちょっと、分からないな」  「マジか……お前冷たいねぇ」  「……」  「本当に分からない?」  「分からない。誰なの?」  「ほら、中学の時の……同じクラスだったじゃないか!」     「ああ! ちょっと見覚えあるような……ないような……」  「まぁ、ここで立ち話も何だから、何処か店に入らない?」  「別にいいけど……」  二人はとりあえず近くの居酒屋に入った。  席に座る二人。店員にお酒を注文した後、しばらく見つめ合いながら無言の状態が続く。  「いやー、居酒屋空いててよかったな」  「あのさ……」    「え?」  「君、誰だっけ?」  「何で思い出せれないんだよ。がっかりだぜ」  「あ!」  「お! やっと思い出したか!?」  「もしかして……(たかし)か!?」  「ふふふふふ」  「思い出した! 隆だ! めっちゃ久しぶりだな! 卒業以来だよな?」  「やっと思い出したか! でも覚えてくれてて嬉しいな」  「いやーでも、変わったな。中学の時は太ってたよな!?」  「そうそう。二十歳の時に彼女に振られて、そのショックで痩せたんだ」  「そうなのか。いやーあの頃はいつも一緒に遊んでたよな!」    「そうだな。いつもつるんでたよな」  「でも、いきなりビックリした。肩を叩かれたからてっきりセールスの人かと思ったよ」  「ははは。俺本当に昔セールスやってたけどね」  ビールを運んできた店員。二人はジョッキを手に持つ。  「じゃあ、隆。二人の再会にかんぱーい!」  「かんぱーい!」  「くうー。やっぱ冷えたビールば最高だなよな、隆」  「そうだな。ビールはやっぱ美味いよな」  「そういやさ、隆。中学の時、ずっとあの子のことが好きだったよな」  「ああ。そういうのも、あったよな」  「ほら、あの子……。名前なんていったけ?」  「なんだったかな。まあ、可愛かったよな」  「名前だよ、名前。あの子の名前。忘れたのか?」  「はははは。もちろん覚えてるけど、もうその話しはいいだろ」  「お前の口から聞きたいんだよ。あの子の名前、何だっけ?」  「知っているけど答えを教えたら、つまらなくなるだろ?」  「なんだっけなー。もう喉のとこまできてるのに、言えないや」  「ははは。じゃあ、答え教えないほうがいいだろ」  「思い出した! (あゆみ)ちゃんだ!」  「そうそう。歩ちゃん、歩ちゃん」  「いや、待てよ……。緑……(みどり)ちゃんだ! 歩ちゃんは直樹(なおき)っていう友達の妹の名前だ」  「あ、そうそう。確かそうだ。二人して間違えるとはな。ははは」  「緑ちゃん、本当に可愛かったよな」  「もう学校のマドンナだったよな」  「いや、待てよ。名前、緑ちゃんじゃないな……」  「あ、そうだっけ?」  「あれだ! 思い出した! アシュリー・クリスティーナだ! フィンランド人の! めっちゃ美人だったよな!?」  「そうそう。お人形みたいな子だったよな」  「懐かしいなー。アシュリーちゃん、元気かな」  「なあ、ちょっと……相談があるんだけど、いいか?」   「なんだよ、隆。もったいぶらないで言えよ」  「俺の親父がな……癌で死んだんだ」  「えええ! マジ!?」  「昨日……病院のベットの上で亡くなったんだ」  「そうなのか……」  「それで二日後に葬式があるんだけど。葬儀のお金が少し足りないんだ……」  「いくら必要なの?」  「五百万ほど……」  「なるほどね……」  「助けてくれないか?」  「わかった、わかった。考えとくよ」  「本当か!?」  「それより覚えてるか?」  「え?」  「一緒によく釣りしてたよな」  「あ、ああ。まあ、釣り好きだからな」  「一緒にエチゼンクラゲとか釣り上げたよな」  「そうそう。懐かしいな」  「その後、ダイオウイカも釣ったよな」  「あれは、デカかったよね」  「釣り上げたエチゼンクラゲとダイオウイカを戦わせたりしたの覚えてる?」  「あれは凄い戦いだったよな。後にも先にもあんな戦い見たことないよ」  「あれは凄かった! あ、あれ、どっちが勝ったんだっけ?」  「どっちだったかな。ダイオウイカだったような……」  「エチゼンクラゲだよ! 確か毒針で勝ったんだよ」  「そうそう。毒針でエチゼンクラゲが完封勝利したんだよな」  「いや、違う。ダイオウイカだ。あいつがエチゼンクラゲを丸呑みしたんだよ」  「そうだった。あいつの口は本当にデカかったよな」  「どっちなんだよ!」  「え?」  「さっきはクラゲって言ってたじゃないか!」  「ま、まあ昔の話だからな。はっきりと覚えてない……けど、ダイオウイカが勝ったんだよ」  「いや、違うね」  「え?」  「思い出した。引き分けだ。あの二匹、同士討ちになって死んだんだよ」  「そうだ、引き分けだ。二匹とも死んだんだよな」  「懐かしいな。あと暴走族五十人相手に喧嘩したのもあったよな」  「そうそう。俺らコテンパンにブチのめされたよな」    「なに言ってんだよ。無傷で生還したじゃん。族は俺一人で全員倒したじゃねえか」  「あ、え? そうだったね。お前以外と強いんだよな」  「ほらあと、一緒に山でキャンプしたのも覚えてる?」  「あーあった、あった。懐かしいな、キャンプ。皆で行ったよな」  「なに言ってんだよ。二人だけで行ったんじゃないか」  「あ、そうそう。そうだったね」  「それでキャンプしてたら、たまたま不発弾見つけたんだよな」  「あれはビックリしたよな」  「あの不発弾……どうしたんだっけ?」  「どうだったかな、警察に渡したんだっけ?」  「違うよ。嫌いな担任の愛車に投げて爆発させたんじゃないか」  「そ、そうだったな。お前めちゃくちゃだな」  「懐かしいな。またあの頃にもどりたいな」  「あのさ……」  「なんだよ、隆」  「お金……早急に用意できるか?」  「まあ、できるちゃ、できる」  「本当か? 今日、用意できるか?」  「できるよ」  「ありがとう! 本当助かるよ!」  「隆、俺たち親友だろ? 困った時はお互い様だ」  「本当に感謝してる」  「あ、ちょっとお手洗い行っていいか? ビール飲みすぎたらもようしてきちゃって」  「いいよ、いいよ」  「じゃ、ちょっと行ってくる。あ、今日はさ、俺の奢りだからジャンジャン頼んじゃっていいよ!」  「え? 本当にいいのか!?」  「久しぶりの再会だ。パーとやろう」  「ありがとうな」  「あ、そうだ、アシュリーじゃなかったわ」  「は?」  「シャレン・ナランちゃんだ。ネパール人の。お前が好きだった子の名前」  「そ、そうそう。そういう名前だったわ。懐かしいなシャレンちゃん」  「じゃ」 ーー居酒屋のお手洗い場にて  「もしもし。警察ですか? 今、詐欺師にお金取られそうになってるんで現場まで来てもらいませんか? 本人は自分を隆って言ってるみたいなんですけど、僕には隆って名前の友達はいなくて……」
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