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24、小さき者達
代わる代わるリルの部屋を出入りしては魔力を吸われる事を繰り返して、リルの発情期は終わった。
発情期が終わるといつも通りの生活に戻ったが、リルはよく食べる様になった。
「あのね、リルおなかすくの。おかわりしていい?」
「いいに決まってんだろ。おら、食え」
日にこうしたやり取りが何度も行われた。
そして、お腹が若干目立つ様になってくると、リルは目に見えてソワソワと落ち着きが無くなった。
そしてある日言い出す。
「リルね…、おかあさんのとこかえりたいの」
「そう。わかったよ。すぐに帰ろうか」
そうして3人は魔界に帰る事にする。
魔界に着くとリルはすぐにバラクダの元に向かった。
クロエは子を産んでバラクダから離れたら自分の名を呼ぶ様にリルに言って、送って行った。
「…お前、こんなトコまで送っていってるのかよ…。度胸あるな」
クロエがリルをバラクダまで送る時、本当にギリギリの殆ど幹近くと言っていいエリアまで送っていく。
「バラクダ狩りに出会わないとも限らないだろ。会ったら間違いなく襲われる」
「…確かに」
バラクダ狩りとはバラクダの葉や花や実などを採取しに来る集団だ。
大体、2、30人程度で狩りを行う。
その人数でバラクダを攻めて生き残るのは半数といったところだ。
しかし命の危険はあれど、手に入れればヴァルミカルドで高値で売れる。
葉は比較的簡単に採れるので、そう高くなく、花になると一気に値段が跳ね上がる。
実に至っては、その値段はたった一個で葉や花を凌駕する。
数十年は遊んで暮らせるくらいの稼ぎになる。
なのでバラクダ狩りは後を絶たない。
皆大物の実を狙って命懸けの狩りをする。
そしてそういう連中は大体腕に自信のある奴が多いので、弱い悪魔には尊大だ。
リルなどは見つかれば奴隷として連れていかれる可能性がかなり高い。
なのでクロエは必ずリルをバラクダの幹の近いエリアまで送っていく。恐怖心を押し殺して。
リルは長らく帰ってこなかった。
たまにバラクダの幹の近くまで行ってみると、リルの唄声が聴こえる事があったので元気なのだろう。
そもそもリルにはバラクダに対する恐怖心はなく、それどころか思慕の念すら持っている。
子供を産み落としてすぐに帰って来なくても不思議ではない。
半年ほど過ぎてリルから呼び出される。
クロエは待ち侘びていたリルの呼び出しに意気揚々と応えて召喚される。
シュバルツともリンクしてあったので同時に二人は召喚された。
「くうちゃん!しゅうちゃん!」
リルは喜色を浮かべて二人の名を呼んだ。
「リル、無事だったんだ。良かった」
クロエはリルに近づく。
「近づくな!」
「こっち来んな!」
下方から声が上がる。
リルの腰回りにまとわりつく小さな存在に気がつく。
「お前らなんだよ!」
「リルに近づくな!」
リルの腰回りにまとわりつくその存在は二人。
雄牛のツノを持つ小さな悪魔と牡羊のツノを持つ小さな悪魔。
この二人は自分達によく似た容姿をしている。
どっちがどっちの子供であるか一目瞭然だった。
「くうちゃんもしゅうちゃんもやさしいからだいじょうぶだよ」
リルはにっこりと笑って小さな悪魔達の頭を撫でる。
「あのね、あかちゃんたちね、リルといっしょにきたいっていったからいっしょにきたの」
クロエとシュバルツの方に向き直り、リルは二人に告げる。
これが自分達の子供…。
この小さな悪魔達は恐らく強い。
しかもこんな幼い時分から魔力の隠蔽を覚えている様だ。
「お前ら一緒に来んのか?」
シュバルツは子供達に話しかける。
「…リルは俺たちと一緒にいるんだ。お前らもう要らないから」
「うっせえわクソガキ!」
自分の子供と思われる方を抱き上げる。
「行くぞ」
「やめろよ!」
「ずっとリルにまとわりついてたらリルが歩きにくいだろうが!」
「…だからって抱き上げなくてもいいだろ!ウゼェな!」
なんだかんだと抱き上げられながら言い合って歩き出す。
クロエは自分の子供と思わしき方にチラリと目を向ける。
「お前も抱き上げてほしいか?」
「俺はいい」
流石は自分の子供、淡白だ。
クロエはそう思うと一応子供と手を繋ぐ。
「行こうか、リル」
「くうちゃん、おむかえきてくれてありがとう」
「リル、身体の調子はどう?どこかしんどい所は無い?」
「だいじょうぶだよ!リルねすごくげんきなの」
「そっか。よかった」
その言葉にホッとする。
もしリルに何かあったらクロエは狂える自信がある。
「先ずばヴァルミカルドのお家に帰ろう」
「うん!」
相変わらず朗らかな笑顔でリルはクロエに話しかける。
クロエはやはりリルが好きで堪らなかった。
この半年リルと離れていて痛感した。
こうしてリルの出産は終わり、子供達二人が増えた生活が始まる。
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