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21、しばしの別れ
その日は唐突に訪れる。
リルと知り合ってもう1年は経っただろうか?
ゆうちゃんはリルという不思議な大人が好きで堪らなかった。
自分を無条件に受け入れてくれる様は亡くなった母親を思い起こしたし、でも、自分よりも物を知らず、自分の話す内容を目を輝かせて聞いてくれる様は大人の全てわかって頷くそれとは全然違っている。
まるで年下の幼女に話して聞かせる様に話せる事はゆうちゃんの優越感を大いに満たしてくれた。
そんな大人は他にいない。
ある日、同級生の三杉悠香があまりにしつこく放課後にデートだなんだと誘って来るので、衝動的にリルと会う事を話してしまった。
ゆうちゃんにしてみれば、興味のない相手から強引に自分の予定を決められて行きたくもない誕生会や親同伴のデートに連れ回されるなんて溜まったものではない。
その際にリルと過ごす事がどれだけ楽しいか、悠香との時間がどれほどつまらないか、悠香にぶつけてしまった。
「そんな大人ホントはいないんでしょ?」
「居るよ!」
「何処にいるのよ⁈」
「噴水公園だよ!」
「大人は昼間はお仕事してるのよ!子供が遊んでる時間にいるわけないじゃない!」
「じゃあ行ってみりゃいいだろ!緑色の髪でいつも赤いカラコン入れてるよ!」
こうして悠香はリルに悪意の全てをぶつけに行った。
自分が比べられる大人の女はどんな女なのか、どんな手練手管で私の祐太郎を骨抜きにしたのか、大人の癖にズルいという憤りと共に会う前から大っ嫌いなその女をギャフンと言わせなければ気が済まなかった。
その後リルと会えない日が続いた。
学校であった事、パパや姉と行った動物園のこと、そこで見た虎や間近で触れたカピバラの手触りや抱っこさせてもらったうさぎの温もりをリルに聞かせてやりたかった。
きっといつものようにキラキラと目を輝かせて聞いてくれるに違いない。
リルといつも一緒にいる男は二人いて、
そのどちらもリルには優しかった。
ただリルにしか優しくする気はないようで、自分達の会話に入ってくる事も、ゆうちゃんに興味を持つ事もなかった。
この3人は不思議だった。
昼間から大人ならしてるであろう仕事もしている様子はないし、3人で暮らしてるようだった。
リルに聞いてみた事があったけど、全員仕事はしてると言っていた。
本当に不思議な大人達だ。
ある日、その一人の大人に怒られる。
悠香がリルに文句を言いに来た事を大層怒ってる様子で、その原因を自分にされてしまう。
ゆうちゃんはただ、リルとの時間を守りたくて、悠香に思いの丈をぶつけただけだったが、大人の男は嘘をついてでも、悠香に心の伴わない優しさを向けてでも、リルに近づけるなと怒った。
そうでなければもう二度とリルに会えない。
ゆうちゃんはリルとの時間を奪われる事だけは我慢ならなかったので、その条件を飲む。
それから学校で男子と遊ぶのを控えて、悠香に時間を使ってやった。
優しくしてやると、その分少しずつ言う事を聞いてくれるようになった。
それに伴いゆうちゃんは何故か女子にモテるようになった。
何でも女子に優先してやってるだけで、女子は喜んだ。
更に望む事を叶えてやればもっと気持ちはゆうちゃんに向かった。
実はそれらは全てリルの真似をしていただけだった。
ある日、悠香と話をしていると、突然悠香がリルの話を始めた。
「リル?だっけ?会いに行ってもいいよ、祐太郎」
「なんで?三杉はリルの事嫌いだっただろう?」
「どうして?ただの黒猫でしょ?嫌いな訳ないよ」
何故か悠香はリルの事を黒猫だと思っている。
よくわからないけれど、これでリルと会えると思うと胸が弾んだ。
多くの疑問よりも喜びが先に立った。
そしてリルと再開できた。
今まで話したかった出来事を息が切れるほど必死になって話した。
そうして、場所を変えてからも会えていたけど、
ある日、男の一人がやって来て、しばらく来られない、と告げた。
「なんで⁈しばらくってどの位⁈一週間?一か月⁈」
「さぁ、わからん」
「なんで…⁇どっか行くの⁇」
「魔界に帰る」
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