敵は我にあり

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敵は我にあり

 その男、向かうところ敵なしだった。  小学生の時の水泳記録会。100m自由形で、大会新記録を打ち出し、ダントツの1位。全校生徒からだけでなく、県の水泳協会からも注目される存在になった。  中学に入ってもその勢いは衰えず、次々と記録を塗り替えた。身長は伸び、肩幅は広がり、背中はしなやかな筋肉で覆われた。  周りの者は彼をもてはやした。群を抜いたがっちりとした体躯、爽やかなルックスは、学校中の女子からの注目も集めた。 「俺にかなう奴はいない」  心からそう確信するようになったのも無理はない。自然の成り行きだろう。それを裏付けるように、彼は誰よりも水に触れ、息を止め、水中という無音の空間で自分を磨いた。  中学を卒業する頃には、次世代を担う水泳選手として、地元新聞や雑誌記者からの取材を受けるようになっていた。
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