ずっと好きだった

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ずっと好きだった

 さとる君。私はあなたの事、ずっとずっと好きだったんだよ。  幼稚園の時の泣き虫だったあなたのことを、守ってあげたのは私だったよね。  でもさ、小学校に入った時からさとる君は真子ちゃんの事が好きになっちゃったんだよね。  わかるよ。真子ちゃんは髪をいつも可愛く結って貰って目もパッチリしているし、唇なんてさくらんぼみたいだもんね。  女子の私から見たってかわいいもん。  それに、優しいよね。  誰かがハンカチを忘れると、必ず予備のハンカチを持っている真子ちゃんは黙ってかしてくれるんだよね。  私も貸してもらったことあるんだ。  さとる君も貸してもらっていたよね。  小学校はクラス替えもなかったから、私とさとる君と真子ちゃんはいつも仲良く一緒に帰ったりしていたよね。  中学校も地元の中学校に3人とも入ったね。  でも小学校と違ったのは私だけ違うクラスになった事だった。  帰りの時間もさとる君はサッカー部に入って、真子ちゃんはマネージャーになったね。  私もマネージャーになろうとしたけど、その時には定員がいっぱいで断られちゃった。  でもね、私の後にマネージャー希望で行った可愛い女子が入れてもらったことも、私は知ってるんだ。  わかってる。私は醜い。髪は真っ黒でごわごわの太いくせっけ。鼻は顔の真ん中に大きくでんと居座る団子鼻。目なんて普通に開いていたら見えないくらい小さいし、まつ毛も短いから、地蔵なんてあだ名がついてるのも知ってる。  体型もずんぐりしているから、小学校6年生の時、赤いマフラーしていった時に地蔵って呼ばれ始めた。  さとる君は真子ちゃんのほうしか見なくなった。  一緒に帰っていても私とは話さない。真子ちゃんもさとる君としか話さない。  中学校になってからは、私だけ同じ部活に入れなかったから一緒に帰ることもなくなったね。  私は二人をだんだん憎らしく思うようになってしまった。  さとる君は小さい頃とは違って、背も高くなって、格好よくなっていった。  真子ちゃんとはお似合いだと思う。  でも、嘘をつかれて同じ部活に入れなかったのは悔しかった。  家で、二人の名前をノートに書いては消した。  何度も何度も繰り返した。  ノートは薄くなり、そのページが破れると、次のページでも同じことをした。  何度も書いては消しているうちに、私は本当に二人の事を頭から消していった。  うん。これでいいんだよ。  私が2人を憎むよりは忘れてしまった方がきっと3人ともが幸せになれる。  私は途中から中学校に行かれなくなってしまった。  二人の事は思い出さなかったけれど、自分が地蔵と言う事は忘れられなかった。    家でも、私は地蔵だから中学校にはもう行かれないと、何度も母に言った。  母は、幼馴染のさとる君のお母さんに相談した。  さとる君は何度か真子ちゃんと一緒に私の家まで来てくれた。  でも、私の頭の中にはさとる君や真子ちゃんなんて友達はいなかったから、お母さんにはそう言って帰ってもらった。  私は地蔵だから、みんなの幸せを願ってじっと座っている。  今日も部屋には沢山のノートと消しゴム。  私は誰も憎まないように、何度もノートに名前を書いては消すことを繰り返した。  おせっかいばかり行ってくるお母さん。お父さん。出来の良い妹。  だんだん私の世界からは皆が消えていく。  私は地蔵だから。  大丈夫。憎い人の名前はみんな消してしまう。  私は地蔵だから。    大丈夫。皆の幸せを願っている。  今は私の前にお供えを置いてくれるおばさんが時々部屋に入ってくるだけ。  私は地蔵らしく、赤いハンカチを首に巻いて、部屋にじっと座る。  私の頭の中は空っぽ。    憎らしい人はみんなみんな、消してしまったから。   【了】      
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