黒池の誕生日2024

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「改めまして!」  みんながクラッカーをこちらに向け、ニコニコとする。 「黒池!」 「黒池ちゃん!」 「黒池先輩!」 「「誕生日、おめでとう!!!」」  ──パンッ!パンッ!パンッ!!  合図のあと、火薬が弾ける音がした。  僕はその火薬の音が嫌いなのだが、こういう時のものはいいかな、と思ってしまう。 「火を付けますね」  冰李さんがいかついジッポライターでロウソクに火を付ける。誰もタバコ用とは思わないだろう。 「電気消してくる!」  セイレーンが走ろうとするが、上原先輩に止められた。 「セイレーンは黒池ちゃんの横にいてあげて」 「そ、そう?なら頼んだわ」  上原先輩が電気を消す。  この部屋は一度めちゃくちゃになりはしたが、みんなで手分けして綺麗にした。そこまで手先が器用じゃなかったセイレーンが飾り付けをしたため、元々が結構めちゃくちゃだったようだが、手先が器用な影中さんのおかげでこだわりの部屋に生まれ変わったのだ。  なので、暗くても足元は大丈夫! 「では〜……ハッピーバースデートゥーユー♪」  セイレーンの声に合わせ、みんなが歌い始めた。中心の僕は恥ずかしさで死にそうだ。でも、こういう時こそ甘んじて受けるのが礼儀だと思う。なので、脳に焼き付けるようにみんなの歌声を聴き続けた。 「ハッピーバースデー、ディア黒池/ちゃん〜♪」  上原先輩だけはみ出てる!! 「ハッピーバースデートゥーユーー!!おめでとー!!!」  みんなが拍手をする中、僕はロウソクが刺さったケーキに近づいた。これはきっと山野くんが作ったものだろう。いつも思うが、すごいなぁ……! 「ふー……!」  火が消え、みんなのテンションは最高潮だ! 「おめでとうございます!」 「おめでとう、黒池ちゃん!」 「ありがとうございます、みなさん!」  僕は笑って返事をした。 「先輩、今回もオレが作ったんですよ!食べてください!ほら、あーん!」  山野くんはいつの間に切り分けたのか、お皿を持ち、フォークで刺したケーキをこちらに向けた。 「じ、自分で食べられますよっ!」 「今日は主役なんですから、任せてくださいよ〜!それに、感想を間近で聞きたいじゃないですか!」 「うう……今日だけ、ですよ?」  そう言って口を開いた。  ふわふわのスポンジに、とろけるクリーム。そしてみずみずしい果物。やっぱり山野くんのケーキは最高に美味しいなぁ♪ 「うん、すっごく美味しい!腕を上げましたね」 「やったー!!上原先輩っ、聞きましたか!?」 「えっ!?あ、うん!」  ハイテンションな山野くんはそのまま上原先輩の方へと飛んでいった。というか絶対先輩話聞いてなかったでしょ……。あ、今僕の心を読もうったって、そうはいかないからね! 「黒池ー!」  次に来たのはセイレーンだ。紙袋を持っている。 「はい、なんでしょう」 「昼間はありがと!そっちが主役なのに、助けられちゃった。これ、プレゼント!」  ガサッ!と紙袋の持ち手を左右に引っ張って中を見せてくる。予想通りというか、なんというか。大量のCDが入っていた。 「これって、セイレーンの……」 「うん!最新のやつの使用用保存用布教用……」  どこでそんな言葉を……って、先輩がウインクしてる!!やっぱり!!! 「とにかく!はい、どーぞ!」 「ありがとうございます、セイレーン」  …………その後も、お花や髪留め、桜型のバッジにマジックアイテムの予備など……半分くらいがそれぞれの趣味であろうものをプレゼントされた。  それでも、僕のために考えてくれたんだと思うと、心が温かくなる。 『黒池』 「マリフ……えっと……ホログラムですか?」  リモートはわかるけど、ホログラムって。ついでなんだけど、他にも勝手にスマートフォンを改造しないでくれるかな!?そのせいでここ数年携帯ショップとご無沙汰なんだけど! 『山野に持たせたマジックアイテムは気に入ってくれたかい?』  マリフは僕の質問に答えずにそのまま話す。彼女らしい。 「は、はい。ありがたく受け取らせていただきました。えっと……一応聞きますが、何に使うものなんですか?」  タイマーみたいな見た目だ。 『ふふん、聞きたい?』  めちゃくちゃニヤニヤしている。嫌な予感がする……。 「教えてください」 『よかろう!その『自動せんの』──こほん。『タイマー型自動操作マシンV2』は、決めた時間に体が(自分の意識とは関係なく)それをするように動かすことができるスグレモノだ』  なんかヤバそうなことを口走った気がする。 「V2。」 『バージョン2ってことさ』 「それはわかりますが……1はどこに?」 『ふふふふふ……聞きたい?』 「や、やめておきます……」  低い声で言われると聞きたくなくなってしまう。  彼女は人間界にいるが、れっきとした『悪魔』だ。常に気を張っていないと、いつ何をしてくるかわからない。 『そうか。残念だよ。ま、今日はキミの誕生日だ。この一日はもう少しで終わってしまうが、せっかく皆が準備したんだ。楽しめよ』 「はい!」  珍しくまともなことを言っている。 『人間の寿命は短いからな。だというのに、お前はその寿命をさらに短いものにしようとしている。全くもって愚かだ。この言葉の意味がわからないほど、子供ではないだろう?』 「………………はい」 『よろしい!では、良い一日を!』  そう言ってホログラムは消え、タイマーはただのマジックアイテムに戻った。いや、『ただの』と言えるような代物ではないけど……言葉のアヤってことで。 「黒池ちゃん、マリフとの会話は終わったー?」 「はい!終わりました!」 「じゃあこっち来て!写真撮るよ!」  上原先輩が手招きをしている。  嬉しさが隠しきれない僕は100点満点の笑みを浮かべ、皆の元へと駆け出した。
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