黒池の誕生日2024

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「ここのようですね」  冰李さんがスマートフォンの地図アプリと名刺を交互に見る。なぜ冰李さんが持っているかというと、僕が持つといつ誰を助けに行ってコートごとボロボロになるかわからないし、富山さんが持つと怒りに任せていつの間にか消えているかもしれないからだそうだ。  ……いや、なんで!? 「……『プレハブ』ってヤツですね」  普通こんなところに建てないだろという場所。そしてペラペラの、『永住』の2文字に全くそぐわない材質でできた建物。  うーん、プレハブだ! 「犯罪をするにはピッタリってことですか」 「そうですね。……黒池さん」 「はい。冰李さん」  僕と冰李さんは、またドアの窓の下に隠れる。さっきは貸し出し用のパーティールームだったが、今回は広さが圧倒的に狭い。ちゃんと動けるのだろうか。 「お、お前ら……まさかとは思うが──」  富山さんが嫌な気配を察知し、止めようとする。しかし────  もう!  遅い!! 「チェストォォオオオオオ!!!」 「御用だ!!全員手を上げろ!!!」 「お、お前らー!!?」  冰李さんが扉を蹴り飛ばしたあと、僕は日本刀を持って突入した! 「お前どこから剣出してんのー!!?」  それは秘密★ 「な、なんだっ!?」 「うおおおお!?危ねぇじゃねぇか!!」  僕がわざと外して日本刀を振り下ろす。これでもなかなか牽制になったのではないだろうか。 「ふふふ……♡ぶつ切りか三枚おろしか……好きな方を選んでくださいね♡」 「「どっちも嫌だよ!!!」」  目を見開いて、本当に嫌そうな顔をして叫ぶ。あんなギャグ漫画みたいな顔、初めて見た!  それよりも、PCが何台か置いてある部屋の隅でポカンと口を開けているセイレーンの姿を目撃する。よかった、場所は間違ってなかった!あと、そのおかげで後ろ髪引かれることなくこの人たちをボコボコにできる! 「粉骨砕身(物理)……」 「それ相手がなるヤツだよな!?」  冰李さんならやりそう。  というか言葉の使い方間違ってるってば! 「では────」 「覚悟ッ────!!」  瞬く間に狭いプレハブ小屋は戦場と化した。(一方的に)戦い始める僕たちの攻撃が当たらないように、と富山さんはセイレーンの方に向かった。 「大丈夫か!」 「う、うん!……あ、もう終わったみたいだよ」 「は?」  拘束を外そうとした富山さんがこちらを見る。  そこでは僕の日本刀が袖に刺さり、まるで昆虫採集の標本のようになって戦意喪失した男と、冰李さんのみぞおち正拳パンチを食らい、痛すぎて転がっている男がいた。  あまりにも、強すぎる。  というか、あまりにも、弱すぎる。  僕と冰李さんは苦笑いしながら互いの顔を見ていた。 「お……終わっちゃいましたね」 「フン……雑魚が」  パンッパンッ!と手を叩く冰李さん。冰李さんは足技が得意なのは知っていたが、まさか拳もここまでとは。  正直なんで冰李さんが入るまでの枠が無かったのかがわからない。師匠も公式ではないにせよ入れたのに。それに弟を置いてまで推攻課に入ろうとしたのに、なんで僕が入ろうとしたら諦めてしまったのだろうか?うーん、わからない……。 「さ、さすが推攻課……と言ったところか……」 『失踪事件』とのことで常備していたポケットナイフで結束バンドを切ると、セイレーンは弾かれたように僕の方へと走ってきた。 「黒池〜〜〜!!!」  両手を広げて走ってくる女の子。僕は誰にでも平等に、という人間だが、さすがにこんな怖い目に遭った女の子を、事務的な言葉で片付けるわけにはいかない。 「大丈夫ですか、セイレーン!怖かったですね、もう大丈夫ですよ」  僕は背中をさすった。  震えている……。 「うっ、うっ……ひむひむ〜……」  次は冰李さんの方に抱きつく。  ポロポロと涙をこぼして……あぁ、かわいそうに。 「ごめんなさい、私が悪かったです」  冰李さんは『私』モードになっている。本当に僕の前だけ『俺』なんだ……。 「いいの……ひぐっ……来てくれたから……っ」 「大丈夫。大丈夫ですよ……」  冰李さんはセイレーンの頭をポンポンする。さすが『お兄ちゃん』。昔もこんな感じで弟の霜慈さんを慰めてたのかな。  …………家族……かぁ。 「……ここで何を調べていたんだ?」  富山さんが置かれていたPCを確認する。僕も気になっていたので近寄ろうとした。  ──その時。 「………………なァに、勝手に触ろうとしてるんだ?」 「!!」  隣の部屋の扉が開いて、巨漢が出てきた!!スキンヘッドの日焼けオバケ!! 「なァ!!」  男の手が、完全に油断していた富山さんの方へと伸びる。  しかし、その手は完全に富山さんを掴むまではいかなかった。 「………………あなたに選択肢を与えましょう」 「は……はあ!?」  僕は睨み上げる。 「『悪魔でも悶絶する痛みを与えられる』か」 「『それを上回るチカラ』か……」  いつの間にか僕の隣に来ていた冰李さんは、富山さんを逃しながら手をゴキリと鳴らした。 「どっちにしますか♡」 「両方でもいいんですよ♡」  冰李さんもふざけて語尾にハートをつける。日に日に冰李さんのキャラが音を立てて崩れていく。 「……ハッ!こんな小僧に、そんな力があるって言うのかよ!」  男は侮った。 「じゃあ……」 「はい」  僕は日本刀を回し、柄の部分を男の腹に向ける。大丈夫、鞘に入っているので僕の手が斬れることはない。一方、冰李さんは拳を握った。それだけで怖い。 「「隣の部屋で、お楽しみといきましょう♡」」  ドゴッ!!と音が出そうなほどに男を隣の部屋へと突き飛ばす。セイレーンはニヤニヤしながらスマートフォンを取り出し、富山さんは頭を抱えた。 「う……うわああああああ!!!この、この……悪魔あああああ!!!!!」  ……隣の部屋から、日が暮れるまで男の叫び声が聞こえたとか……なんとか。
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