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最後の大逆転
赤系のカーマインのブレザーにミニスカート、膝下までのダークブラウンのショートストッキングの女性が健の隣に立っていた。
髪型はボブ。少しつりあがった大きな目はキラキラ輝き、女王様のようなカリスマ性を備えている。
ニッコリ笑ってミニスカートをひるがえす。マシュマロのように、フワフワと盛り上がって真っ白な太腿。スカートが揺れるとスィーツのような甘ったるい香りが漂う。太腿の白さとは対照的、ダークブラウンのショートストッキングの網目からぞく白い肌の輝きがあまりにも美しすぎる。
すぐに倉橋社長も及川副社長もフラフラ。
「作者の高木彩香です」
倉橋社長はだらしなく口を開けたまま。及川副社長の大声。
「あ、あなたは超アイドルグループ『スター・ライト・キッス』のセンターの高蔵サキ《たかくらさき》さん」
「ええ、そしてこの本の作者です」
「エエーッ、そんな」
「『スター・ライト・キッス』からのデビュー後に、ラノベのコンテストで入賞しました。私、元々、作家になりたかったんです。そんなとき、たまたま姉がこっそり申しこんだ『スター・ライト・キッス』のオーディションに合格したんです。どうしてもって説得されてデビューは決まったけれど、コンテストの応募原稿が完成していたので、母のプロフィールで応募しました。だから出版社は、ずっと作者は私の母だと思っています。芸能事務所からは、
『アイドルが男性向けのラノベを書いていると知られて、メリットがあるかどうか? イメージダウンになるかもしれないから、高蔵サキの名前は出さないで欲しい』
と言われてました。母と私はクリスチャンでしたが、ウソを言うのはよくないことですから、教会に行くのはやめました」
倉橋社長と及川副社長は口をだらしなく開け、呆然自失の情けない表情。
「芸能界を引退するまで黙っているつもりでした。だけど私のラノベのため、こんなにがんばってくれる日下部くんの熱意が、私を変えてくれました。私の一番大切な人を守るため、『スター・ライト・キッス』の高蔵サキが、ラノベ作家の高木彩香だと名乗り出ることにしました」
サキが丸められたチラシを拾って広げる。そのままふたりにつきつける。
「このチラシは作家・高木彩香の親友で、高木彩香ファンクラブ会長の日下部健くんが一生懸命つくりました。あなたたちは、食事の時間があっても、このチラシを読んでくれないって言うんですね。だったら提携関係は解消します」
「ブルブルブル。それは、この心の冷たいイジワルな社長が言ったことです。最初から私は、
『何て素晴らしいチラシだ。時間をかけて読むべきだ』
と心の中で反対していました」
「ち、ちがいま~す。この副社長はそんなこと言っていません。実はですね。悪いのはみんな副社長なんです。ぼくちゃん、いい子です。どうか、お願い。お友だちになってください。」
「それでは私の親友がつくった新作の主題歌があります。平積みにした本の前でミニコンサートさせてくれますか?」
倉橋社長が大きくうなずく。及川副社長がすかさず、
「それからどうか……私とハイタッチ、ツーショットを!」
「黙れ、貴様。副社長の分際で許さん!」
「社長は厳しく粛々と仕事に取り組んでいてくださいね。ハイタッチ、ツーショットは私が……」
「黙れ、仕事なんかよりハイタッチ、ツーショットだ」
「その前におふたりさん。私の親友に言葉をいただけますか?」
「日下部くん。いやあ、最初に会ったときから、君はただ者ではない人間だと思っていたよ。いやあ、素晴らしい。こんな少年がいるなら、日本の未来は明るい。令和の渋沢栄一は日下部健くん。君に決定! バンザーイ」
「私なんかですね。もうひと目会ったその瞬間から彼こそ、これからの日本を背負って立つ人間だと、心の中で叫んでいました。日下部くん。君のフルート、すぐに聴かせて。お願い」
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