新作はふたりで

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新作はふたりで

「日下部くん、yahooニュース見てる? 高木彩香先生、今は高蔵サキ先生がいいのかしらね。先生と日下部くんの話題でいっぱい。私もふたりと撮った写真を店内に飾ることが出来て本当に感激してるから」  駅前書店の女性店長から電話があった。 「ありがとうございます」 「なんてったって、私、日下部くんのファンクラブ会長だからね」  健は急いでyahooニュースをチェックしてみる。 〈高蔵サキが『高木彩香』のPNで発表したラノベがベストセラー  高蔵サキを支えたファンの日下部健くんの活躍とは?〉 〈高蔵サキのラノベ コミカライズ、映画化決定 ファンの日下部健君が作詞作曲の主題歌も大ヒット!〉  そしてマリリン社では! 「社長、中村編集長、担当の丹羽さん。ラノベ作家の高木彩香、そして歌手の高蔵サキとして要求します。日下部くんの主題歌にちゃんとお礼を支払ってください」 「ハハーッ、仰せの通りに致します」 「私の大切な親友の日下部くんを侮辱した手紙についても説明を要求します」 「ヒ~~ッ、あ、あの無礼千万な手紙は編集の中村くんが……」 「い、いえ! あの人間性を疑われるセクハラな手紙は担当の丹羽くんが独断で」 「ち、違います。あの手紙は……。ヒェーッ、もう誰もいない」  半年後、夕焼けの田舎道。赤のタートルネックセーターに青のGパンスカートのサキと健が肩をならべて歩いていく。ようやくサキが実現させたふたりだけのデート。 「次のラノベの主題歌も、『スター・ライト・キッス』で歌うからね。まだ何も書いてもないのに、映画化、アニメ化の話が殺到中」 「『私を学園祭に連れてって』の映画の大ヒット、おめでとうございます」  健が心からお祝いの言葉をサキに伝える。 「みんな日下部くんのおかげ」  サキがそっと健の手をにぎる。健の頬が、あっというまに真っ赤に変わる。 「ネッ、ふたりでラノベつくろうよ」 「でもぼく、主題歌はつくれますけど小説は……」  サキが親しげに健と腕を組む。そっと耳元に口を寄せる。 「健ちゃん、私たちふたりが主人公のラノベをつくろう。きっと平積み間違いなしだと思う」  サキがついに名前呼び。 「新作ラノベのラストはね。私が健ちゃんにこう言うの」  サキが愛おしそうに健を見つめる。 「少し年上だけど、いつか君ひとりだけのヒロインになってもいいですか?」  健は思わず大きくうなずいていた。  ほとんど同時。健の体は、しっかりサキが、お姫様抱っこしていた。                    
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