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僕は、知っていた。あの頃から知っていた。それでも、それを伝えなかった。それが正しいことだったのか。間違えだった。そんな気がしているから、後悔が残っている。
あの子は、入学当初から、クラスの女子に嫌われていた。
それは、些細な嫌がせから始まった。そして、次第に過激な物へと変化していた。最終的には、あれはいじめと言える範囲を超えていた。
しかし、あの子は、それに気づいていなかった。そんな気がしている。
あの子は、何をされていても辛そうな素振りを一切見せなかった。
あの子は基本的に、無表情だった。ここに写る写真のように、常に感情がないような表情をしていた。あの子が何を考えているのか、思っているのかなんて何も分からなかった。そして、僕は、そのミステリアスなあの子の雰囲気に惹かれていた。
それでも、時折、見せる涙や笑顔を見せることがあった。その表情にも心惹かれていた。
僕は、あの子が好きだった。
だから、あの子が辛そうな素振りを見せなくても、彼女たちがやっていることは、どうしたって許せなかった。別にあの子が好きでなくても、許されることではない。そんなことは理解しているけれど、もし逆の立場だったとして、僕は止められていたか分からない。
もちろん、あの子がされていたような子が少なることを願って、努力してこの仕事を選んだ。それでも、僕は正義の心を持っているのか自信持てない。
それは、あの頃の僕が勇気が持てなかったからだ。あの時は、もし行動をしたせいであの子がより傷つくことになったらと思うと何もできなくなった。それに、どうしたら、いいのかなんて、まだ幼かった僕には、わからなかった。
だから、僕はあの子には隠し通すことにしたんだ。あのことも、僕の想いも隠すことにしたんだ。
僕には、それを伝える資格がないから。
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