第1話 そして今日も婚約が破談になるのであった

3/9
前へ
/259ページ
次へ
 斜め下に向かって思い切り、テーブルクロスを引っ張った。  テーブルの上に並べられていたティーポットやティーカップ、ケーキ皿などを残して、テーブルクロスだけが引き抜かれた。  茶器のたぐいは一瞬かちゃんと鳴ったが、テーブルから落ちたものも割れたり欠けたりしたものもなく、残っていた紅茶は一滴もこぼれなかった。全部無事だ。  お見事わたし、才能がある。  とかなんとか言っている場合じゃない。  レギーナは、引き抜いたテーブルクロスをテーブルの上に置くと、しおしおと椅子に戻った。  やってしまった。  今回も派手にやらかしてしまった。 「……すみません。つい」  婚約者候補がひきつった笑みを浮かべる。 「何と申しますか……、元気なお嬢さんですね」  聞きたくない。レギーナは極力しとやかに、おだやかに、いっそ少しおとなしいくらいに振る舞うつもりだったのである。それが貴族の令嬢というもので、理想の良妻賢母というやつではないのか。 「申し訳ないのですが――」 「やっ、やめてぇーっ」 「このお話は、なかったということに」
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加