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斜め下に向かって思い切り、テーブルクロスを引っ張った。
テーブルの上に並べられていたティーポットやティーカップ、ケーキ皿などを残して、テーブルクロスだけが引き抜かれた。
茶器のたぐいは一瞬かちゃんと鳴ったが、テーブルから落ちたものも割れたり欠けたりしたものもなく、残っていた紅茶は一滴もこぼれなかった。全部無事だ。
お見事わたし、才能がある。
とかなんとか言っている場合じゃない。
レギーナは、引き抜いたテーブルクロスをテーブルの上に置くと、しおしおと椅子に戻った。
やってしまった。
今回も派手にやらかしてしまった。
「……すみません。つい」
婚約者候補がひきつった笑みを浮かべる。
「何と申しますか……、元気なお嬢さんですね」
聞きたくない。レギーナは極力しとやかに、おだやかに、いっそ少しおとなしいくらいに振る舞うつもりだったのである。それが貴族の令嬢というもので、理想の良妻賢母というやつではないのか。
「申し訳ないのですが――」
「やっ、やめてぇーっ」
「このお話は、なかったということに」
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