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婚約者候補が立ち上がり、ご丁寧にも椅子をもとに戻して、静かに館のほうへ歩き出していった。きっとこれから帰り支度をするのだろう。この家の使用人たちがレギーナの婚約話がまとまることを期待し彼を宿泊させるつもりで用意していたのがすべて台無しになった。
レギーナはしばらく呆然と椅子に座り込んでいた。
屋根と庭に植えられた木々の間に抜けるような青空が見える。
おそらきれい。
正気を取り戻してわたし。
レギーナは自分の横にいる兄をにらみつけた。
兄は平然とした顔をして冷めた紅茶の残りを飲んでいた。
「兄様」
「何だ」
「破談よ」
「そのようだな」
レギーナはふたたび立ち上がり、円卓の上を叩いた。また、茶器ががちゃんと鳴った。割れなかったので問題ない。
「涼しい顔をしていらっしゃるけど、わたし、また婚約話が立ち消えたのよね」
「そういうこともある」
「記念すべき十回目ですけど」
「十回や二十回なんということもない。そう気を落とすな」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
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