6人が本棚に入れています
本棚に追加
1
宮城雄太はその日の仕事を終え、終電に近い時刻の電車に乗りこんだ。予定より業務が伸びてしまい、疲れ切った体で車両内の横長の座席に腰を下ろすと、雄太はなんとなしに車両の中の様子を眺め始めた。
繁華街に近ければもう少し車両内も混み合っていたのだろうが、乗り込んだ駅のホームは人影も疎らで、そして車両の中もすぐに何人と数えられるくらいの人数しか乗り合わせていなかった。
まず目の前の座席には、少し間を開けて2人の人物が座っていた。雄太から向かって右手には、ブレザーの制服で短いスカートを穿いた女子高生が乗っていて、足を組んでしきりにスマホをいじっている。まあ典型的な「今時の女子高生」といったところだろうか。スマホに集中するあまりなのか、組んだ足の付け根あたりからチラチラと下着が垣間見えそうになっているが、そんなところを集中して見ているわけにもいかず。雄太はあくまで自然な素振りで、女子高生の素足の太腿から目を逸らすことにした。
その女子高生と数メートルの間隔を置いて座っているのが、こちらは明らかに「典型的な、会社帰りのサラリーマン」だと思われた。年齢は20代後半の雄太よりやや上か、スーツを着てビジネス用の黒いバッグを膝の上に乗せ、その上に両手を置き。そして上半身を座席の背もたれに思い切り預けて、首を少し右側に傾げ。両目を閉じている代わりに、口の方はパッカリと開けて、ヨダレでも垂らしそうな勢いで眠りこけていた。
サラリーマンは時折、「がくん、がくん」と体を痙攣するように震わせていて、恐らく「いい夢」でも見ているのかなとも思えたが。こんな風に、無防備とも言える姿で電車で眠り込んでしまうというのは、それだけ昼間の仕事がキツかったという証明なのかもしれないなと、雄太は自分の身を顧みて、少し胸が「ズキン」と痛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!