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 しかし同じ座席に座っている女子高生からすると、近くにいて自分に「もたれかかって」来たりしたらたまらない。女子高生とサラリーマンを隔てている数メートルの間隔は、そういう意味が込められているのだろう。まあ、そんな女子高生の気持ちもよくわかるし、仕事疲れで寝入っているサラリーマンの心情も痛いほど理解出来る。ただ自分はここまで無防備に、眠りこけたり出来ないんだよなあ……。その点では、雄太には目の前のサラリーマンが、ほんの少しだけ羨ましくも感じられていた。  そして次に、雄太と同じ座席に座っている男。こちらは目の前の女子高生とサラリーマンほどの間隔は開けてはいないが、きちんと「それなり」の距離を置いて雄太の右側に座っている。女子高生とサラリーマンは雄太が乗り込む前から電車の中にいたが、この男は同じ駅で乗りこんだ覚えがある。そしてごく自然に、雄太と間隔を開けて座席に腰を降ろした。  こちらはサラリーマンとは対照的に、いわば「自営業」の人なのかな、と雄太は考えていた。年齢は恐らく30代半ばくらいだが、スーツではなくグレーに近い落ち着いた色合いのシャツを着ていて、派手さがあるわけではないが、かといって安物でもないような気がした。つまりスーツを着て仕事に行くような生活はしておらず、自営業などである程度の「稼ぎ」を得ている人物なのだろうなと。  これがチンピラ風情の輩だったら、もう少し態度が粗雑になるだろう。だが傍から見ている限り、不快な思いを感じるようなことはなかった。とすると、室内に籠って何かをする、ネット関係の仕事やデザイナーなどではなく。商店などを経営して、普段から「人と接する仕事」をしているのかもなと推測出来た。その経験値が、電車に乗った時も「自然と周囲に気を使う」ことに生きている可能性が高い。
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