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「仕方がないんです! どう試算しても、それしか方法がないんです! 従業員の雇用を守り、社長を守るには、給与カットや工場などの資産売却だけでは足りない!」
「わかっている。新薬開発には莫大な費用がかかる上に、成果が出るのは十年に一つもない。これからのバイオ製薬、遺伝子操作の時代には、さらに一桁上の開発費が必要だ。今のアカツキには分不相応でしかない」
「でもボクは……苦しんでいる人を救えなかった……」
いつきの絞りだすような声。苦しんでいるのはお前だろ。若いのに、責任を背負いこんで、もっと楽な生き方もあるだろうに。
「これほどたくさんの犠牲を払う再生計画なのに、それでも承認されなければ、今度こそ会社はなくなる。銀行団とスポンサーを動かさなくちゃいけない。ボクにそんなことができると思いますか? 何もないボクに」
いつきの声が小さくなっていく。不安だろうな。だから俺に告白したかったのか。その時安中は気づいた。今まで、悩み・苦しみだと思っていたことは、結局自分のことしか見ていなかった。
安中はカバンの中から、ガラスの小瓶を取りだした。
「これは」
幸運薬、と言いかけて止めた。
「不安で苦しくて、先が見えない時に、この錠剤を飲むといい。きっと上手くいく」
瓶をいつきは両手で受け取った。これがいい。これでいいんだ。
《……to be continued》
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