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ファルを呼んだ男は愛想良く笑うと
自分の向かいの席に座るよう手招きした。
「俺はガン丸。腹減ってんじゃないのか?」
そう言って消え入りそうなファルに箸を握らせた。
目の前の男たちは
くちゃくちゃ口いっぱいの食べ物もそのままに楽しげに喋り倒している。
箸の先を相手に突きつけ、肘をついて粗野に笑う。
ガン丸の箸の先がファルに向けられた。
そしてその先が皿とファルの顔を往復する。
食べろという事だろう。
ファルは勧められるがままに
箸の先で一つ摘み口に運ぶ。
黙々と食べる。
・・僕は今・・何を食べているのだろう・・・
箸の先でついばむように食べながらふと、ガン丸を見る。
ガン丸がじっとファルを見つめている。
「大丈夫か?」
ファルはコクリとうなづくとポツリと言った。
「お腹すいた」
心許ないファルの顔を覗きながらガン丸は箸の先を軽く振った。
「食いな」
「うん」
その瞬間ファルの目つきが変わった。
ガタっ!
ガン丸たちは一斉に立ち上がった。
本能が危険をキャッチする。
種子や果物でいっぱいの食卓がひっくり返り
まだ息のある昆虫は皿から這い出る。
連鎖反応がドミノ倒しのように広がり
ガン丸たちの悲鳴が奇声となり
逃げ惑う影は恐怖と混乱に染め上がる。
一人、また一人・・足がもつれてうまく逃げられない挙動に
ファルの狙いが集中する。
瞬く間に俊敏に捕えては喉元に喰らいつく。
細いながらも逞しく引き締まった四肢が
捕食対象の動きを確実に封じる。
小さな顔半分は血まみれのまま
咀嚼音を鳴らして肉を喰らう。
五臓六腑に染み渡る旨みを味わうその目は
恍惚の光を帯びていた。
恐怖と喧騒の中そこだけに
上品なクラシック音楽が流れているように
優雅に激しくガン丸たちの群れはファルの空腹を満たす。
どれくらい経っただろう。
一人残されたファルがポツンと座っていた。
その顔は幸せそうにニッコリと笑っている。
「・・・お腹いっぱい」
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