できることなら

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 夢を見ていた。  若い頃の甘酸っぱい思い出。  それにしてはリアルすぎる記憶。  俺は浦谷康平。  少し出てきた腹に悩む46歳、働き盛りのサラリーマン。  26歳で結婚して早20年。気の強い妻の尻に敷かれながらも仲は良く、息子16歳と娘14歳の2人の反抗期真っ只中の子どもがいる4人家族。  まだまだローンは残ってるけど持ち家もあって、高級車にはとても乗れないけど、車だってある。  これで幸せでない訳がない。  どこにでもある幸せな風景。  もちろんまだまだ職場での出世も狙ってるし、10年と少しもすれば孫の顔だって見る事も出来るだろう、これから幸せな事はたくさんあるはず。  しかし自分の体力から考える仕事のモチベーション、自分と妻との世帯収入から予測する経済力などを考えると今が人生のピークなのかなと感じる事がある。  自宅では長年にわたり妻へ対し良い夫であろうと必要以上に気を使い続け、職場では後輩たちの成長、先輩たちの圧力の板ばさみに多大なるストレスを与えられていた。  俺はある日、体調を崩してしまった。  妻に表情がなくなったと言われた。ぼーっとしていて呼ばれているのに気が付かない事が増えた。  急に動悸が酷くなったり、頬や唇、手足に痺れが出たり、急に不安感や焦りに似た圧迫感を感じて身動きが取れなくなる。    うつ病、自律神経失調症と診断された。  診断された後、上司に説明して1週間ほど休みを貰ったが、その後も月に1、2回会社を休む様になった。  朝、どうしても起きる事が出来ない。  いくら寝ても寝足りない。  そんな時、必ず見る夢。  妻の名前は、美緒ではない。
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