できることなら

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 お気に入りのドライブコースを走っていた。  助手席には彼女の美緒が座っている。  地元の海岸沿いを走るだけだが、特に名所があるわけでも展望台なんかがあるわけでもない。  1台だけ自販機がある小高い駐車スペースを目指して走る。駐車場の柵から眼下に広がる海を眺めるのが好きだった。  自販機で買ったコーヒーを飲みながら海を眺める。ただそれだけ。  1人でもよく行ったし、もちろん美緒ともよく行った。  何もないところへ向かうだけだから、美緒は楽しくなかったかもしれない。  それでも 「康平と一緒に見るこの風景が好き」 「一緒にドライブできるのって幸せ」  そう言ってくれた。  俺は美緒が好きだ。心から好きだった。  美緒は高校の同級生で違う大学だったけど、大学に入学した頃から何度も何度も告白しては振られを繰り返していた。    今思えば迷惑だったろうとすら感じる。  4回生になる頃、そろそろ諦めないといけない、今回が最後だと決めて告白した時も、当たり前の様に断られた。  さすがに理由を聞かずにはいられなかった。 「どうしても忘れられない人がいてさ。裏切られたのに忘れる事が出来ない。もう同じ思いはしたくないの」  美緒は涙を流していた。  俺の知らない間に付き合ってた奴がいたのか。教えてくれてもよかったのに。告白し続けてた俺って馬鹿みたい。  関係ない。  美緒が泣いてる。  俺にはそいつを忘れさせる自信があった。  そいつよりも幸せに出来ると思った。  根拠はない、だけど確信があった。  俺は思いのまま伝えた。忘れさせてみせる、幸せだと思ってもらえる様にと。  文字通り必死だった。  伝わらなければ本当に終わりにするつもりだった。  足掻いた。とにかく説いた。 「忘れさせてくれるの?信じていいの?」  美緒は泣きながら言った。  俺は思わず抱きしめた。 「信じられない?何回も言ったろ?」 「康平。なんで怒んないの?彼氏いた事を黙ってたのに、こんな理由で断ってたのに」 「好きだから」  顔を見合わせて少し笑った。  そして、  長いキスをした。
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