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河村一樹から仁科愛美へ 1
それまで、恋愛に興味なんてなかった。
人を好きなったことはある。特定の女の子を見て、可愛いなって思うこともある。性欲だって、たぶん人並みにある。当然、オナニーだってする。
でも、誰かと付き合いたいと思うことはなかった。
これは、モテない言い訳じゃない。自慢じゃないが、そこそこモテる要素を持っている。
俺の成績は、四〇〇人ほどの学年で常に二桁の順位。進学校でこの成績は、なかなか優秀だと思う。さらに、ボクシング部のない高校で、ジムに通いながら試合に出ている。自慢じゃないが、地元の強豪選手の一人でもある。
そんな俺だから、今まで三人に告白されたことがある。そのうち一人は、俺の好みのタイプだった。実は、オナニーのネタにもした。
でも、付き合わなかった。
俺の頭の中は、ただ一つのことに埋め尽くされていたから。目標があったから。それを叶えるためには、彼女なんて邪魔だった。
俺には、自信がなかったんだ。彼女なんてできたら、きっと、やるべきことを疎かにしてしまう。どうしても叶えたい目標があるのに、努力を怠ってしまう。努力を怠って手が届かなかったら、いつか後悔する。
だから、必死に自分を律していた。彼女が欲しい気持ちを、妄想とオナニーで代用した。自分がやるべきことを、常に最優先にした。
でも、心が折れた。
いや。折れたと言うより、心が奪われた、と言った方が正しいかも知れない。
弱っているときに優しくされると惚れてしまう、なんて話をよく聞く。たぶんそれは本当だ。
あれはきっと、俺の初恋だったんだ。だって、精通してから初めて、性欲もいやらしさもない感情で、女の人を見たんだから。
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