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河村一樹から仁科愛美へ 2
――事の発端は、今年の初夏まで遡る。インターハイ予選の時期だ。
俺は、中学の頃からボクシングをやっていた。始めた理由は単純なもので、テレビに出ていたボクサーが格好良かったからだ。切れ味鋭いパンチで、豪快に相手をKOする姿。男なら、誰でも一度は憧れる「最強」という言葉。そんな姿を体現しているようなボクサーだった。
中学からボクシングをやっていた俺は、高校に進学して試合に出ると、すぐに地元の強豪になった。他の学校の二年や三年にも当たり前に勝てた。
けれど、どうしても勝てない奴がいた。俺と同じように、中学のときからボクシングをやっていた選手。俺と同じように、他の学校の二年や三年に圧勝していた選手。
一年のときのインターハイ予選で、俺は初めてあいつと戦った。
結果は、完敗だった。
それから、地元の予選の決勝で、いつもあいつと戦った。これまでのあいつとの戦績は、六戦全敗。あいつは一年のときにインターハイで優勝し、今まで負け知らず。今年のインターハイが終わったら、高校卒業を待たずにプロ入りが決まっていた。
俺達は、今年三年。つまり、俺にとって、今回のインターハイ予選が最後のチャンスだ。
あいつと戦って勝つ、高校最後のチャンス。
そりゃあ、気合いだって入る。練習にだって集中する。減量だって慎重に行なった。試合に向けて調子は上がってきていた。コンディションも良かった。インターハイ予選は、三日後に迫っていた。
嫌なことというのは、そんなときに限って起こるものだ。
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