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久しぶりに出会った正斗が、道の真ん中に突っ立っている姿だったので、僕は結構驚いた。季節に文句を言う人間ではなかったけれど、好んで寒暖を楽しむ人間でもなかったはずだ。
この白いものがちらつく外で、いったい何をしていると言うだろう。尋ねてみないわけにはいかなかった。
「何か見えるのか?」
近づきながら問い掛けると、見上げていた空から僕に視線を移した。その穏やかな表情にまた驚く。驚く僕の視界に、ひらひらと雪が被さり邪魔をする。
正斗の声はヴェールの向こうから聞こえた。
「晴也と同じものしか見えないよ」
僕に見えるもの。それはたった今、雪だけになったところだった。
宙を踊らせすくい上げた雪のひとひら。その手のひらが、僕の目の高さに差し出される。
「何に見える?」
謎かけか?
迷っているうちに溶けて消えた。僕は見えていたはずのものを、唯一正しい答えと思い口にする。
「雪だろ?」
沈黙の間。笑いと共に繰り出された解答は、
「桜だよ」
「雪だぞ」
「わかってるよ」
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