雪か桜か

1/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 久しぶりに出会った正斗が、道の真ん中に突っ立っている姿だったので、僕は結構驚いた。季節に文句を言う人間ではなかったけれど、好んで寒暖を楽しむ人間でもなかったはずだ。  この白いものがちらつく外で、いったい何をしていると言うだろう。尋ねてみないわけにはいかなかった。 「何か見えるのか?」  近づきながら問い掛けると、見上げていた空から僕に視線を移した。その穏やかな表情にまた驚く。驚く僕の視界に、ひらひらと雪が被さり邪魔をする。 正斗の声はヴェールの向こうから聞こえた。 「晴也と同じものしか見えないよ」  僕に見えるもの。それはたった今、雪だけになったところだった。  宙を踊らせすくい上げた雪のひとひら。その手のひらが、僕の目の高さに差し出される。 「何に見える?」    謎かけか?  迷っているうちに溶けて消えた。僕は見えていたはずのものを、唯一正しい答えと思い口にする。 「雪だろ?」  沈黙の間。笑いと共に繰り出された解答は、 「桜だよ」 「雪だぞ」 「わかってるよ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!