雪か桜か

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 あまりに楽しそうに笑うので、僕はちょっと、不安を覚えた。こんな正斗には慣れていない。  初めて会うようなこの人間は、正斗の顔を、また空へと傾けた。 「似てるなって話。そう思ってたんだ」  正斗の声が話を始める。僕の知っているその声で。 「春には雪を見てたんだ。桜の花びらが散り積もる様子を見て、雪みたいだって」  僕は観察をやめて、同じように空を見た。気温がまた下がったらしく、一片が大きく降ってくる。  どこからが空なのかがわからない。  僕を中心にして三角錐を作り、先端は果てしなく遠い空、のような感じもするし、とても低いところにこの空は在り、手の届くほどの距離から雪を落としているようにも思う。  距離感覚が狂うのは、普段は見えないものが僕のまわりを動き回っているからだ。  桜、雪、桜。想像はできる。散る桜の中に立つ僕は、まるで雪のようなものを見るだろう。風に浮く軽さは、同質のものに思える。  今では想像に難しい暖かな空気の中で、正斗がそんなすりかえをしたのは、雪の名を持つ少女に端を発している。  雪――『小雪』。僕の妹は、正斗に特別を見なかった。
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