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雪、雪、雪。舞う雪に囲まれ、正斗はさっき、何を言った?
――桜だよ。
それを、正斗の声で聞いたのだ。
「桜、なのか?」
僕はポケットの中から手を取り出し、ひとひら載せて、正斗の前に差し出した。
僕の手の上でも雪は溶けた。また降りてきては溶けて消え、だんだんとその時間が長くなっているのは、手が温かさを失っていくからだ。
僕の温もりはどこへと消えるのだろう。このままここにこうしていたら、地面のように扱われるかもしれない。
正斗は形を変えてゆく雪を見つめ、指先でちょいとつついた。一瞬掠ったその指に、僕は温度を感じてぎょっとした。
雪はゆっくりと溶けて崩れる。とてもゆっくりと、まるで雪ではないように。
「今は、この中で桜の花を思い出してる。あんまり自然で、驚いた。どこから変わっていたんだろうと思って」
腕を広げ、両手いっぱいに受け止める。
また見上げている。木の梢ほどに近い空なのか、あるいは遠い、遠い空。
目に映すのは僕と同じものだけだとしても、見ているものは違うだろう。
――どこから変わっていたんだろう?
「見ていたんだ、ここで」
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