第一章 まだ、青い

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「今まで顔も出さずインタビューにも応じてこなかった元天才高校生漫画家がついにステージ生登壇! Jフェス来場者からの質問にその場で答えます!……なんて煽ったらそりゃあ、客増えますもんね。 そういう客寄せの企画上げないかんのでしょ? ノルマでもあるんやろか、編集って大変やねぇ」 お昼過ぎ、編集担当との定時ミーティングはここ一週間ずっと同じ話題だ。3ヶ月後に迫る秋のビッグイベント・Jフェスで、僕の作品の特設ステージを設けたい出版社側と、派手なことはしたくない作家側の押し問答。 これまでいくつも企画アイデアを聞かされてきたが、今日はついに恐れていた話題が出てしまった。 僕が連載デビューをしたのは高校1年生だ。 漫画家を仕事とする事について、未成年である僕は両親の同意をとる必要があった。 両親は僕を理解してくれていたので反対の言葉は出なかったが、その代わりにと一つ条件を出された。 未成年である間の僕のプライバシーは全面的に出版社が守ること。 だから僕の顔は公に出ていないし、僕自身の情報が漏れ出ないようにインタビューや取材なんかも極力退けてくれた。 月影望という名前は本名だが、公式にはペンネームとされている。 僕という人間が守られている間はやりやすかった。 僕は僕の漫画が注目されてくれたらそれでいいのだ。 確かにこの作品を生み出しているのは僕だけど、何を考えて作ったかとか、どういうことを伝えたいかとか、そういう僕の意志や思考なんかに誰も興味を持って欲しくはない。 そんなに気になるなら漫画から読み取ってくれというのが、デビューから一貫した僕の言い分だ。
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