第一章 まだ、青い

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だが成人を迎え、学生という肩書きからも解放されてしまった今、僕のプライバシーは雁字搦めに守られなくなってしまった。 作品は相変わらずの人気をキープしているし、単行本を始めとする関連商品の売れ行きもメディアミックス展開も衰えていない。 でも、だからこそ、と編集担当は言う。 『あのなぁ、望。今の時代、クリエイターは作品一つで勝負して勝てる状況にないんだよ。消費者にとって作品の良し悪しの判断は総合的になってる。 作品だけじゃなく、それを生み出す創造主の人柄、生い立ち、思考、発言、全てを見て評価を下しているんだ』 今でこそ僕は、作品のみの力で評価を勝ち取っている。 だがこのままではいずれ総合力で負ける。 若さという加点を失って凡庸になった僕の脇を、十代の新星が自らをも広告塔とする加点ブーストで駆け抜けていく。そういう未来がもう、すぐそこまで近づいている。 だからここで新たな加点を勝ち取っておけ。 編集担当の言うことは理解できる。 僕もいつかは、僕自身を切り売りして漫画を描くことになると覚悟もしている。 けど今じゃないと思う。もう少しピンチになってから切るべきジョーカーだ。 っていうか、初めての顔出しが何千人の聴衆の前ってあまりにもハードルが高すぎるだろ。 大体、コミュ障においては世界的権威である僕がそんな企画うまくやれると思うのか? 僕がステージの上から急に「アリーナー!」なんて煽り始めたらむしろ読者が引くだろ。 「何を言われても絶対に嫌です。これ以上言うなら通話切ります。顔出し声出しインタビュー以外ならなんでもやるんで、検討お願いします」
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