第六章 僕たちは恋じゃない

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やっと頭に酸素が戻ってきたようだ。 まだ心臓はうるさいが、五感がだいぶ戻ってきた。 こちらを見下ろす陽一の目を見て、少し笑う余裕も出てきた。 「ってか今、夜中の二時だけど……何してんの?」 陽一が眉を下げて笑う。声に呆れが滲んでいる。 そりゃそうだ、と受け止めて、僕は一度頷いた。 「うん。陽一を攫いに来たんよ」 目を見張った陽一が、照れたように顔を背けた。 その反応がなんだか嬉しくて、僕は周囲を見渡してからそっと、陽一の左手を捕まえた。 午前二時。東京の真ん中に、僕ら2人だけ。 まるで世界が終わったみたい。 虫の声がささやくだけの静かな夜に、僕らは歩く。 「とりあえず……身体は元気そうでよかったわ」 「うん。俺も、望の足が遅くて持久力無さすぎなままで安心した」 「あぁもうほんま、人生でいちばんの全力疾走やった。まだちょっと肺が痛いわ」 僕が胸をドンと叩くと、陽一は嬉しそうに顔を綻ばせた。 握った手の事には触れもせずに、前のめりで僕を覗き込んで言う。 「漫画家とかデスクワークって何気に体力勝負って言うじゃん。腰痛の防止には筋トレが一番だし、望もちゃんと運動しろよ」 俺がトレーニングメニュー考えてやろうか? 続く言葉は少し魅力的だったが、お願いするのは癪で睨み返すだけにした。 陽一はそれをヘラヘラ笑って受け流し、じゃあ勝手に考えよ、と小さく呟く。 そして、心地よい沈黙。 いつもの僕らのままであることを確認した、短いアイスブレイク。 繋いだ手の強張りが、互いに大切な話をしようとしていることを伝えている。 広い道を進んでいたら、大きな入り口に出た。 車止めの柵がないので、車両も入れる出入り口らしい。
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