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彼氏。恋人。パートナー。
世界でたった一人の特別な人にだけつけることが出来る、貴重な名札。
それに憧れなかったわけじゃない。そういう関係の二人になることを、考えなかったわけでもない。
甘美な妄想を何度もしたよ。他の誰でもなく、そういう関係になれるのは日向陽一ただ一人で、それは間違いない。
でもね、僕らにとっての居心地良い関係は多分違うなって感覚も、ずっとあったんよ。
だってさ、きっと僕らこの先もずっと、なんも変わらんと思わん?
僕は漫画家で、京都に住んでる。お前は芸能人で、東京に住んでる。
お互いの仕事もあるから会う頻度が極端に増えるわけでもない。
その代わりLINEのやり取りはどうでもいいことをずるずる続ける。
会ったらしゃべって笑って、僕らは互いのことが好きで、互いの存在が支えになってて、しんどい時はあの青い三日間とお前の顔を思い出して、なんとか前に進んでいく。
ほら、なんも変わらん。ただ二人の関係に「恋人」って名前がつくだけ。
それだけや。
「……なのに、たったそれだけの小さな変化一つで、お前の立場は簡単に崩れる」
スキャンダルが出るまでは、僕の中にはまだ可能性があった。
なにも変わらないけど、特別な関係になったという口約束があるだけで陽一が楽になるのなら、とすら考えていた。
「日向陽一に恋人がいる。しかも相手は男だ。たったそれだけのこと、何にも恥ずかしくない普通のことなのに、お前は今までの日向陽一じゃいられなくなる。僕は、そんなん絶対に嫌なんよ」
信号が青になった。僕らはまだ歩き出せない。
陽一は俯いてしまった。
表情が見えないから、僕は繋がった手の熱だけをなんとか手繰り寄せる。
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