第六章 僕たちは恋じゃない

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「僕はね、陽一。 僕しか知らない日向陽一が好きやけど、僕だけのものになった日向陽一にはあんまり魅力を感じないかもしれん。みんなに愛される日向陽一を遠くで眺めながら、でもあいつのこういうところは誰も知らんしなって密かに優越感に浸るのがいいんよ。今風に言うなら、同担拒否だけど売れてて欲しい、ってやつ? わかるかな、この感じ」 咄嗟に出てきたフレーズを口にしてみたら、やっと陽一が少し顔を上げた。 半笑いのような、なんとも言えない表情で「同担拒否なんだ」と呟く。 そこに喜んでしまうところが、世界中の誰も知らない、僕だけが知ってる可愛らしいところだ。 「……難しく考えなくていいと思うんよ。僕は陽一が好きで、陽一も僕を好きでいてくれて、僕らには僕らだけが持ってる思い出がいくつもあって、これからも一緒に笑っていたい。それでえぇんやないのかな」 陽一の唇が少し動いた。 僕は用意していた言葉を飲み込んで、言葉が出てくるのを待ってみた。 しょんぼりと下がった眉がどうにも心苦しいけど、繋がった手に力を込めて耐える。 「……でもさ、」 反語だ、何か言い返される。 咄嗟に身構えたが、次に顔をあげた陽一はなんとも情けない顔をしていた。 「キスできないじゃん」 もしこのシーンを漫画にしたなら、僕の後ろにそこそこでかい文字で「ズコーッ」と書くだろう。 古の漫画効果音に少し固まってしまってから、僕は言葉を選んで口を開いた。 「……僕のファーストキスを奪ったのは恋人どころかまだ友達とも言えない初対面のアイドルだったんやけども?」
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