第六章 僕たちは恋じゃない

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思わず語尾を強くしてしまったら、陽一が小さく笑った。 僕のこの反応を見越してあんな表情であんなことを言ったのなら、やはりこいつは天才俳優だと認めざるを得ない。 「セックスもできないぞ」 何故か得意げに陽一が続ける。刺激の強い単語に一瞬迷ったが、売り言葉に買い言葉だと勢いに任せた。 「この世にはセックスフレンドって言葉もあるくらいやし、やりたかったらやればえぇんちゃうん」 「じゃあやるか!」 「やらんわ阿呆!」 僕の渾身の「阿呆」が、誰もいない交差点に響いて消えた。 その余韻ごと吸い込むように陽一が深呼吸をして、次に目を開けた時にはすっかりいつもの笑顔だった。 「こないださ、ふと思い立ってゲイビ見たんだけど」 思わず喉が詰まるようなとんでもない方向転換。ツッコミも追いつかないまま、陽一は僕が目の色を変える様を楽しんでいる。 「予想に反して全ッ然ヌけねぇのな! なんでだろ! もうちょっと望に似た男優探さなきゃい」 「キモいキモいキモいキモいキモいやめろマジでキモい」 「あ! 人の純粋な欲望をキモいとか言うなお前、最低だぞ」 言葉の割に、口を尖らせ頬を膨らませるふざけた顔で陽一は言った。 僕は苛立ちを片手にこめて、その膨らんだ頬を思い切り潰してやった。 そうしたら陽一はまた笑って、すごく清々しい顔で夜空を見上げて、満月に小さく「うん」と頷いてから、言った。 「……大丈夫だ、俺。望がいれば、なんかもう全部大丈夫。それでいいんだ。それだけで充分」 信号が何度目かの青を照らす。 まばゆい光に目を細めたら、陽一に手を引かれた。 駆け足で横断歩道を渡ったら、二人で柵に手をかける。
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